第1章20 『長い夜』
「だぁぁぁぁぁあ!!!」
「ハハハハハハッッッ!! ぬるい、ぬるいな?!」
「くっ!? なんて霊力なんだよ、本当にそれで足りてないっての!」
「本来の力があればこの街なんぞ、一瞬で焦土となるわ」
救援と正輝を呼びに千影は現場を離れ、一人で信長と対峙することになった真妃は苦戦を強いられていた。信長に乗っ取られた零士は空中に浮いていながらも、刀から斬撃を無数にばら撒き辺り一体を破壊していく。
信長自身の負のエネルギーが強すぎるのか、色んなところから邪魂が引き寄せられ刀へと吸収されていく。少しずつ場所を移動しながらの戦闘に真妃も疲れが見え始める、このまま移動が続けば他の街にまで被害が及んでしまう。
だが考える時間は与えてくれず直ぐに斬撃が飛んでくる、避け続けるのにも限界がある、真妃は必死にただただ交わし続ける。
「はぁはぁ…………」
「巽の力もそんなものか、くだらん。くだらんな!!」
「な!? がはっ!?」
まるで瞬間移動をしたかのように真妃の目の前に零士が現れる、回し蹴りを決められた真妃は建物の壁に叩きつけられる。口の中に鉄の味が広がる、立ち上がらなければ殺られる、立ち上がらなければ零士が危ない。
何度も自分に言い聞かせ奮い立つ、束ねていた長い髪もいつの間にか解けてしまい身体にまとわりつく。状況は最悪だ、信長は攻撃を何回か行った後直ぐに邪魂を吸収しさらに力を付けていく。よく見れば零士の身体から湧き上がる黒いオーラは人の形を作り始めていた、これ程までに強い霊力を見たことがない。
「ぺっ!! なんだよその力、お姉さん見たことないんだが?」
「なら冥土の土産に聞かせてやろう、私は九鬼信長では無い」
「何!? お前さっきは零士が最後の肉体だとか言ってたじゃねーか!」
「あぁ、九鬼家は元々霊力が桁外れな一族だったのだよ。300年前に九鬼信長が斬首刑に合い、その時に少し放出された負のエネルギーを私が感知した」
「じゃあやっぱりお前が大戦の発起人かよ!?」
「そうだと言えばどうする?」
挑発をするように空中で椅子を座ったポーズをする。
今乗り移っている霊体は九鬼信長では無く元々はただの霊魂だった、その霊魂は昔、九鬼家の傘下に入った霊滅師だった。ある日の夜、その霊滅師は霊鬼の気配を感じ走り出すが霊鬼の数が尋常では無かった。
救援を呼ぶためにその場を一度離れ九鬼家へ向かう、しかし九鬼家の長だった人物は『そんな馬鹿げた数がいる訳が無い』と、信じてくれず当時霊滅師だった霊魂は一人で戦闘を始める。
当たり前だが数の暴力には適わず、霊鬼達は街を荒らし始めた。ようやく騒動に気づいた各霊滅師達は霊鬼達を消滅させていく、その中に九鬼信長の姿もあった。彼は他の霊滅師とは違い無駄のない動きで鮮やかに切り込んでは吸収していく、その日はそれで終わりを迎えたのだが悲劇はここからだった。
翌日、その霊滅師は九鬼家に呼び出される。
呼び出された理由は『報告の遅れ』だった、もちろん現場で確認したあと直ぐに報告を入れたと話すが、『聞いていない』と九鬼家の長は否定する。何度も反論をしていると信長が間に割って入ってくる、彼が話すには『長は記憶力が乏しい、君の言っていることは本当かもしれない』と助けに入る。
それでも長は信じない、長が信じない事は他の連中も信じない。それからというものの毎晩毎晩霊鬼が出現し、霊滅師は働きっぱなしになってしまう。話を信じて貰えなかった霊滅師はある日任務が終えて帰宅する時だった、九鬼家の庭から何らかの気配を感じこっそり覗くと、そこに居たのは長だった。
毎晩霊鬼を呼び出していたのは九鬼家の長、凄いものを目撃したと驚いていた彼は慌てて走り出し周りの霊滅師へ報告。
信じては貰えないと考え直接見てみろ、と提案を出した。毎晩月が出た日に行っていることがわかったその霊滅師、と騙された気持ちで様子を見に来た霊滅師達。確かに九鬼家の長は霊魂を呼び出して霊鬼に作り上げていた、それから僅か数日後九鬼家の長は死刑になり、霊滅師として活躍していた信長も斬首刑になった。
それで全てが終わったかのように思えた、だが一番最初に見つけたその霊滅師も『もっと早くに何故報告をしない?』と言われてしまい、『やり方を知ってしまっている可能性がある』とし、一族諸共死刑にされてしまった。
信じてくれない、信じてもらえない、斬首刑にされる直後信長も『自分は何も知らない』と強く訴えていた。こうして誰からも信じて貰えなかった2人、そこから生まれた負のエネルギーはとてつもなく、信長ではなくその霊滅師が邪魂となり信長のエネルギーを吸収していった。
「お前達の昔のやり口が悪かっただけだろ!!」
「誰からも信じてくれないこの気持ちがわかるか!?」
「零士にはもう関係のないことだろッッッ!!」
「ダメだ、九鬼家がそもそも悪い。この男もその血が流れている」
「その大戦から300年以上経っても、ずっと言われ続けてる零士の気持ちがわかんのか!?」
「フフフハハ! なら返してやる、そんな肉体にもう用はない」
零士の身体から抜け出た黒いオーラは身体を突き飛ばす、真妃は力を振り絞りスライディングをしながら零士をキャッチした。すぐに睨みつけるように空を見るが奴の姿はなかったが、声だけが拡声器のように広がって聞こえてくる。
「あの古き天空の池で待っている、そこが最後だ」
「なんだよそこ、逃げるのか!!」
声を張り上げても返事は返ってこなかった、グッタリとした零士の身体は冷たいが息はしていた。
「零士…………」




