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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章16 『非登録者』





 鳥居の下で美鈴(みすず)に聞かれた事は『体調』の事だった、彼女の彼氏を心配しない母親は居ないと思うが気になったのはそこでは無く、美鈴を取り巻いていた空気感にあった。普通にただ体調を心配してくれたのか、それとも何かに気づいたのか、美鈴が前からいなくなっても尚考え込む零士(れいじ)


 当たる風は少し冷たく時おり強く吹き付ける、夜空の真ん中には光り輝く満月は1人になった零士を照らし出す。考え込み過ぎても後々の行動に支障をきたしてしまう、今はその事を忘れて帰ろうとした時だった。


 神社の白石を、ジャリジャリと鳴らしながら走ってくる音を耳にする。振り向くと千影が息を切らしながらこちらへやって来た、膝に手を付きながら呼吸を整える千影。背筋を正してからもう一度深呼吸をした後、零士の目を見ながら口を開く。




「零士さん、送っていきます」


「え? いや大丈夫だよ一人で」


「今日は満月ですし、邪魂(じゃこん)が出てきやすいので危ないですし」


「俺が送るならまだしも、女の子に送ってもらうのって何か違くない?」



 後ろ首を掻きながら目をそらし答える零士、本当の所は違っていた。千影に守られる自分に嫌気がさしているからだ、どこの世界に彼女に守られる彼氏が居るだろうか、恥ずかしいのもある、情けないのもある、零士が一番気にしているのは『守れる力を手に入れた』のに間接的にしか守れないことだ。


 あの『声の主』に言われた事を守らないとどうなるかわからない、力を得てまだ日が浅い上に声の主に付いては何も知らない、今はただ声の主の人形として言う事を聞いておかなければならない。零士が得た力は恐らく良いものでは無い、自分でも何となくだがそんな気はしている。


 鬼狩りと言われる刀とバレないようにと渡された狐のお面、素性を隠さないといけない理由は一体何なのか、そんな事は本人が一番知りたがっていることだ。


 話を少し濁した零士は『だから、今日は良いよ。また明日』と踵を返そうとした時だった、ギュッと手首を千影に掴まれた零士はまた立ち止まる。




「零士さん、本当に大丈夫なのですか?」


「だから、大丈夫だって。ちゃんと霊魔吸引(れいまきゅういん)のお札もあるしさ」


「……そうですか、わかりました。気をつけてくださいね零士さん」


「うん、ありがと。おやすみ」


「おやすみなさい」



 あまり納得していない千影と別れ、零士は少しだけ長い石階段を一段一段見つめながら家路へと向かった。幸い邪魂や霊鬼(れいき)とは遭遇しなかった、だが別の気配だけは感じていた、霊とかでは無く人の気配。


 この力を手に入れてから人の気配も敏感に感じ取れるようになった、人か霊かを別けられる程の察知力。霊滅師は皆同じような力の感覚を持っているのだろうか? 力を手に入れたのはいいが情報が少ない、声の主に聞けば分かるかもしれない。



「おい、声の主聞こえるか?」



 何となく話し掛けるが空振り、一緒にいる訳じゃないのだろうか、零士はただ一人考えにフケながら夜の住宅街へ消えていった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 月曜日を迎えた朝、真妃(しんき)の部屋で千影と朝の報道番組を見ながら朝食を取っていた。朝食は焼いた食パンに卵焼きと言った普通のご飯、この組み合わせが普通かどうかと問われれば『ウチでは普通』としか言えない。


 千影はいつものように零士を起こしにやってきて、朝ごはんを共に食べる。数年間同じようにして過ごしてきたからか、休日の朝ごはんの時は少し寂しさがあったりするが、平日はこうして一緒に食べたり登校したりで充実している。


 しかし今日は少し空気が変わっていた、それは報道番組に出演している人の話を聞いてからだ。




『今日は霊鬼研究センター所長の鴎外(おうがい)さんと、助手の(いぬい)さんにお越しいただきました。よろしくお願いします』



 番組の女性アナウンサーが2人の人物を紹介した後『よろしくお願いします』とその2人は頭を下げる。霊鬼研究センターは霊滅師達が活動した記録や邪魂のサンプルなどを元に、日々霊研究をしている施設。最近は『消滅連盟』と手を取り合いお互いに霊鬼などについて調べている、霊滅師は消滅連盟に登録されたものが公式に認められ戦闘や調査が可能となる。


 だが非登録者も結構存在していて、消滅連盟の調査員に現行犯で見つかった場合は力を取り上げられるとも言われている。なぜ登録をしなければならないのか、理由は『霊力』を悪用して霊滅師と全く関係のない事に力を使わせない為。




『鴎外さん、この頃霊鬼や邪魂の出現率が非常に高いようですがどういう事なのでしょう?』


『我々にはまだまだ未知数な部分があると理解しています、霊脈の変動あるいは霊能力者による犯行。研究課題はまだまだ沢山あります』


『なるほど、邪魂出現率より霊鬼そのものが突然現れる事については?』


『余程の負のエネルギーを持つ人間が近くに居た場合、邪魂はその人に向かって行きます。つまりは取り憑かれてしまい精神も身体もメタモルフォーゼを起こした、とまでしかまだ言えませんね』



 朝食のテーブルを囲みながら食い入るようにテレビを見る3人、真妃は食パンをかじりながら、千影は食べる手を止めてメモを取り出して書き込んでいく。


 一風変わった時間となったが零士は自分が『非登録者』であることを理解し『外れた人間』と言う文字が頭の中に浮かび上がった。

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