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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章13 『灰色』








 スポーツ施設でテニスバトルをした結果、零士(れいじ)の完封負けとなり、罰として近くにあるカフェテリアで甘い物を奢ることになった。まさかここまで強いとは零士も思ってなかっただけに、自分の不甲斐なさに自暴自棄になりかけていた。


 それでも楽しかった事に変わりは無く、千影(ちかげ)も楽しんでくれたみたいで久しぶりのデートは大成功と言っても良かった。カフェテリアでパフェを頬張る千影を見ていると、胸が幸せな気持ちで溢れて胸がいっぱいになる。


 昔は飲めなかったコーヒーを零士は口に含みながら、甘い時間を過ごす。施設で居た時間は予定より少し長く居たため、次に行く場所の調整を頭の中で行っていく。予定ならば映画に行くつもりだったのだが、見るつもりだった奴はもう始まってしまっている、予定をちょっと変更して街の展望台へ行くことにした。




「これ食ったら展望台に行くつもりなんだけど、いいか?」


「はい、零士さんにお任せ致しますっ」



 パフェを食べる千影はスマイル満点で零士の提案に従う、展望台は街の中心部にあり全体を見渡すことが出来るデートスポット。平日でもカップルや家族連れが多いのが特長で、頂上に行くにはロープウェイか遊歩道を使って登る、昔その頂上には大きな城があり『絶対要塞』とまで言われていたそうだ。


 今はその跡地に巨大な天体望遠鏡があったり遊具などが設置されている、だが立ち入り禁止エリアも存在していて少し神秘的な場所でもある。


 カフェテリアで甘味を楽しんでから2人はバスに乗り中心部の山を目指す、バスにしばらく揺られながら景色を楽しんだ後ロープウェイ乗り場で降りる。




「ロープウェイに乗るの初めてなんだよ」


「私もです、ワクワクしますよね」


「だな、じゃあ行こう」



 券売機で往復チケットを購入し係員に渡す、指示に従って四角い箱の中に乗り込むとゆっくりと進み始める。時々『ガタ、ガタ』と揺れることもあるがこれもロープウェイの風情の一つなんだろう、乗っている間は車内アナウンスがずっと流れている。


 スピーカーから聞こえてくるアナウンスは山の絶対要塞の歴史や、それに関わった人物などの紹介とかで簡単な歴史の勉強見たいに聞いていた。


 無事頂上に着くとロープウェイから降りて階段を上がり、細長い道を手を繋いで歩いていくと広い場所に出た。真っ先に見えたのが巨大な天体望遠鏡、その奥には鉄の柵がありそこから下を見ると、




「街がちっさいなぁ!」


「すごいです! 風も気持ちがいいです!」


「昼間だから望遠鏡は覗いても見えないだろうな」


「次来る時は夜ですね」


「あぁ、また夜に来よう」



 小さな街だと思っていてもこうして見れば大きく広い、そして一番奥に広がる青い海は太陽光で照らされて煌びやかだ、こんな場所があるならまた来てもいいと零士は思っている。頂上には出店もあってそこでアイスクリームを購入し2人でペロっと食べ合う、充実した時間を千影と過ごす事は本当に良いものだと横目でチラっとアイスを食べる千影を見る。


 黒髪は光を反射してキラキラしている、こんなにも可愛い女の子が自分の彼女だと改めて認識するとドキドキし始める。



「ん? どうかしましたか?」


「あ、いや。甘いの好きなんだなってさ」


「はい、甘い物は癒しですから。特に零士さんと食べる甘い物はスゴイですから…………」


「そ、そうか」


「は、い…………」



 お互い耳まで赤くして目を逸らし合う、こんな日々がいつまでも続くなら何だってできる、そう思っていた零士だが急に影が差してきたと思い顔を上げると、




「うわ、お前九鬼かよ…………」


「何? 知り合いなわけ?」

 


 その影の正体は零士達のクラスメイト、教室に入るなり零士を罵倒した男子だった。あの時は正輝(まさき)が助けてくれたが今は零士と千影だけ、この男子は『いつか消してやる』と零士に捨てセリフを吐いていた、その時の事を思い出したのか苦い顔をする。


 男子は自分の彼女に『そいつは大戦を起こした九鬼の人間だ』と説明すると、




「何? 霊滅師の敵って訳じゃない、シュンやっちゃいなよ」


「確かにあの時腹が立ったからな? 立てよ九鬼」



 ポケットに手を突っ込んだ男子は零士の前に一歩出る、だがベンチから立ったのは千影だった、2人の間に割って入る。千影を睨みながら『どけよ、女は引っ込んでろ』と邪険にする。




「零士さんに関わらないでください」


「何この女、シュン早くやっちゃいなって」


「だったらお前から片付けてやるよ、九鬼の犬が!!!」



 千影は殴ろうと振りかぶる腕を止めようと手を動かすが、それよりも早くシュンの手は止まっていた、一瞬何が起きたのかお互いに理解出来なかったが彼の手を止めた方に視線を移すと、そこに立っていたのは零士だった。


 ギリギリと強い握力でシュンの手首を握りしめている、千影は驚いていた、零士がこんな事をできるとは知らなかったからだ。真妃(しんき)から巽剣術を教わっていた事は知っている、ただここまで早い動きができるとは知らない。



「誰が犬だ…………」


「い、いててててぇ!!!」


「ちょ!? シュン!?」


「目の前から消えろ、二度と近づくな…………」


「わ、わかった!! わかったから離せ!!」



 パッと握っていた手を解放する零士、千影はその時の零士の目を見て『灰色…………』と小声で呟く、シュンと呼ばれている男子とその彼女は小走りでその場を去った。異様な空気に一瞬包まれる千影は零士の手を握り、



「零士、さん?」


「え? あ、あぁ。ごめん、ちょっとイラついちゃってさ」


「先ほどの…………言え、何でもありません」


「そっか、なんか冷めちゃったよな。今日は帰ろうか」



 千影は『そうですね、仕方ありません』と返事をして2人は帰ることにした、帰ってる最中でも千影の手は少し震えていた、あんな目をした零士は見たことがなかった上に、千影は感じ取ってしまった。


 零士から微かに放たれていた無いはずのそれ、



 ―――霊力を。

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