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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
14/26

第1章12 『空の下』

毎週水曜日と土曜日更新。







 気持ちが良いくらい晴れ渡った青空の下、顔を少し赤くしながらも恋人繋ぎで手を握り歩く2人。天気は快晴で日差しも少し強く、夏ほどでは無いが肌にジリっと焼き付くのがわかる、駅前広場から改札口を目指し歩き出した2人は、隣街に出かけることにした。


 住んでいる場所より隣街の方が遊べる所が多いのと、零士(れいじ)が調べたデートスポットの複数もそっちにある為、電車に乗る必要がある。忘れないようにメモ帳を肩掛け鞄に仕込んでいて、準備は万全に済ませてある。


 改札口を抜けて電車に乗り込み、ゆらゆらと揺れながら15分。




「よし! 着いたぞ」


「久しぶりに来ました、あんまり変わってなくてよかったです」



 若者なら休日に行く場所ナンバーワンの隣街、しかし2人は部屋で過ごす事が多く外に出るのは稀だったりする。駅を出ると高層ビルがいくつも乱立していて人工的に作られたマウンテンがそびえ立っている、そのせいか気温も高く感じて少し動けば汗が吹き出そうになる。


 周りを見渡せばカップルがイチャイチャしながら歩いているのが目に付く、零士と千影(ちかげ)もその内の一組になる訳だが、うまくとけ込めず手を繋いでいるのが精一杯。それでも今日は楽しむと決め込んでいる零士はゆっくりと千景より前に出て、




「行こう、スポーツ施設があるからそこにさ」


「はい、お供いたしますっ!」



 ニッコリ笑顔で返事をする千影、今の日差しより眩しいぜ! とか考えている零士だがそれは多分口にしたら恥ずかしいはず、そんな零士は千影と歩調を合わせながら歩いて施設を目指す。


 零士が向かっている施設はスポーツ施設、屋内と屋外で遊べるスポーツが違ったりと家族連れにも人気の遊び場所がある。これはデートスポットを調べていたら『オススメ!』と書かれていたようで、零士は最初にここを選んだようだ。


 千影はスポーツが得意で中学の頃は色んな部活の勧誘に追いかけられたらしい、零士も得意とまでは行かないが人並みにはできる方だと思っている。


 そして施設に着くとゲストパスを購入し、それを首から下げて入場する。購入したゲストパスがあれば施設内にあるドリンクは飲み放題で遊び放題、休憩スペースやシャワールームも完備している。




「じゃあ何から遊ぶ?」


「そうですねー、うーん。あ! アレにしましょう!」


「アレって、テニスか。いいよやろう!」



 少しだけ悩んだ後フェンスに囲まれたテニスコートを指さした千景、スタッフに話し掛けると私服だと動きにくいと言われ、テニスウェアを借りる事になる。2人は一度別れて更衣室へ向かう、テニスの得点も自動で判別されるのでスタッフはあくまで監視しているだけだ。


 着替えが先に終わった零士はラケットを受け取りコートの隅で待機している、試合形式はワンゲーム制で先に4点を取れば勝ち。いくらスポーツが得意な彼女でも男の零士に力では勝てないはず、そう思っていた。


 しばらく待っていると、




「お待たせしました零士さーん!」


「なんだ、ちょっと遅かっ…………」



 本日2度目の硬直。

 千景のテニスウェア姿は私服とはまた違って破壊力のある格好だった、スカートは大胆にも短く、胸やヒップラインもくっきり出ていて何とも表現し難い。周りの男客も『おー!』と声を上げてしまう程だった、零士は『これが俺の恋人なんだよな…………』とつい小声で呟いてしまう。


 ボケーッとしていると、




「零士さん、れーいーじーさーん?」


「は!? 俺は一体」


「さ、始めましょう!」


「あ、ああ。負けないからな」



 お互いにコート内へ入る、零士は力に差があると千影に申し訳ないと思い、手加減をしようとスタート前までは考えていいたが、その考えは『激甘過ぎる』事に気がつくことになる。


 コート内に設置されたスピーカーから『セット』と言われて構え、数秒後に開始の合図である笛が鳴り響いた時だった、最初のサーブ権は千影でボールを自分より高くに浮かばせて、少し踵を上げながらラケットでボールを弾くと、




 ―――スコォォォン!!!



 ラケットの網目にヒットした音が甲高く、ボールの球自体かなりのスピードで零士のコート内側を狙っている。しかしこのスピードならまだ零士にだって見えている、素早くボールが着弾する位置に動きワンバウンドするのを見守る。


 だがこれは『誘導』だとは気づかなかった、零士から見てボールは右側にある『シングルスライン』内側に着弾する、そのままボールが跳ねてエリア外に出ていくように飛べばラケットに当たる、しかしボールは着弾して右へ流れず軌道が変わり左側へ跳ねていく。つまり零士の動く反対方向へボールは飛んでいった。




「嘘…………だろ」


「やりましたー!」



 単純な話をすればサーブを打つ時に回転が掛かるように、強く角度を付けてボールを打ち込んだという訳だ、スピーカーから『フィフティーン、ラブ』と点数を告げられる。15対0という訳だ。


 こんなテクニックを持っていたとは思わなかった、ならば手加減などは要らない、零士がサーバーになり千景はレシーブになる。ここで負けたら男が廃ると強く思いながら受け取ったボールを高く上げる、狙いはセンターマーカー。


 ちょっと予想より高く上げすぎた事に気付きジャンプをしてラケットを振り下ろす、網目に当たったボールは思ったよりした過ぎてしまいネットに当たってしまう。




「しまった、力みすぎた」


「大丈夫ですか?」


「ちぇ、余裕かよっ!」



 再びサーブをし直すと今度はネットをうまく超えてコート内へ行くが、千影は動こうとしない。答えはすぐにわかった、今度はベースラインを超えてしまいサーブを2回失敗してしまい、相手得点になってしまった。




「ダブルフォルトです、零士さん」


「うわ、ダッセー俺」



 無情にもスピーカーから放たれたボイスは『サーバーダブルフォルト、サーティーン、ラブ』とコート内に響かせる、30対0。


 相手に2点も上げてしまうとは情けない、このままではカッコ悪い彼氏を見せつけて終わってしまう、零士は悔しいが勝つためなら仕方ないと苦渋の選択をする。



「ち、千影」


「はい、なんでしょう?」


「手加減してください、お願いします」


「ぷふっ、わかりましたっ」



 ぷーくすくすと笑いを堪えることが出来ない千影、優しくて強い千影の配慮により今ある点数はミラーにして千景が0点、零士が2点となった。


 これで負けたら本当にただのバカになってしまう、それだけは回避しなければと強くラケットを握りしめ、千影のサーブを待つ零士だった。




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