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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
13/26

第1章11 『テンパる』

毎週水曜日と土曜日更新








「忘れ物は無いかなっと、財布は持ったしハンカチもある、ポケットティッシュ…………」


 日頃から千影(ちかげ)に持ち物チェックをされていた零士(れいじ)、こうして1人で準備をしていても自然と忘れ物が無いかを声に出して確認してしまう。


 千影が忘れ物チェックをするようになったのは一緒に学校へ通い始めてからで、零士の部屋にやってくる度に『忘れ物は無いですか? ちゃんと確認しましたか?』と挨拶の後は決まってこの流れになる。


 それがずっと続けば嫌でも覚えてしまうし身体が勝手に動く、おかげさまで今のところ忘れ物をしたことが無い、千影様々と言ったところだ。そんな彼女にも弱点がある、普段は成績も良く家事もこなし気遣いが出来て誰からも好かれる彼女にも弱点がある。


 その弱点が『牛乳』だ、何故牛乳が弱点なのかと言うとあの匂いや味が昔から苦手らしく、学食で出てきた牛乳は我慢して鼻をつまんで飲んでいる。ただコーヒー牛乳やミルクココアは飲めるらしい、牛乳その物がダメなのであって何かに溶けていれば大丈夫なのだとか。





「よし、じゃあ行くかな。時間はまだ余裕があるしゆっくり歩いても問題無いだろ」




 昨日は邪魂(じゃこん)の影響で体調が悪かったが翌日になるとケロッと回復、そしてあの声の主からもアクションが無いことに今はホッとしていた。せっかくのデートの日に邪魔だけはされたくない、零士は強く『ふっ!』と息を吐いてから部屋を出る。


 ちゃんと鍵を閉めた事を確認した後廊下を歩き階段を降りる、すると玄関先を掃き掃除している真妃(しんき)を見つける、零士は朝の挨拶をするために近づいていくと。





「ストップだ零士」


「え?」


「お前、今日は何時に帰る予定だ?」



 階段を降りきっていない零士、高低差があるため見下ろす形で真妃の話を聞く事になってしまう。真妃は視線こそ向けていないが『待った』の手を零士に突き出して行く手を阻む、そして何故か聞いてくる帰宅時間、少し考えた後零士は『晩御飯なら外で済ませるけど?』と話した時だった、




「それはあれか? 朝帰りをするって奴か?」


「朝帰り? …………イヤイヤイヤイヤ!! 違うって!」


「何だよ照れるな照れるな! 彼女が居ればそりゃそうもなるってもんよ!」


「だから、違うってちゃんと帰ってくるから夜には!」


「な!? つまり夕方にはお楽しみイベントかぁぁあ!?」


「お楽しみイベントってなんだよ!?」



 朝帰りとか言われて一瞬なんの事だか理解ができなかったが、真妃が顔を赤くしながらモジモジしてる所を見てようやく理解ができた。わかったからこそ零士も顔を赤く染め上げてしまい慌てて反論に出る、本当の姉では無いがこうしてふざけている部分があると姉弟の様な気分になる。


 そんな時間も零士にとってはとても心地の良い物なのだが、今はちょっと浸る余裕も無く『健全なお付き合いをしてるからな!?』と断言する。




「はっ! なーにが健全なお付き合いだ、無理無理、男が好きな女目の前にして落ち着けるわけがねーよ」


「姉さんには彼氏居ないからそんな風に…………」


「あ? いまなっつった?」


「げ、やば…………」



 自ら地雷を踏みに行く零士は恐らく焦っているのだろう、ついつい口から出た言葉の重さを理解せずに出してしまったようだ。真妃は零士に瞬間移動をしたかのように近づき、胸ぐらを掴んで真妃は自分の顔近くまで引き寄せる。


 そこから微かに香る女性特有の匂いが鼻を通過して頭の中を一杯に満たす、ガサツな性格をした真妃でもちゃんと出るところは出ていて魅力的なのだが、気に入らなければこんな感じに武力で行使してくる、これがモテない理由の一つ。




「じゃあなんだ? お前が私の彼氏になるか?」


「え、遠慮しときます」


「はっ! さっさと行け、せいぜいイチャイチャとリア充かましてくるんだな」


「ゲホゲホ、言われなくとも!」



 軽く突き飛ばすように胸ぐらを離した真妃、少しむせながら返事をしてアパートから出ていく零士。デート開始前の一日がこんな始まり方でいいのだろうか、ちょっと乱れた衣服を直しながら駅前広場を目指し前進する零士だった。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 しばらく歩く事15分、交通量も多くなり人の量も増え駅前広場も目の前に迫ってきた。改めて髪の毛を手ぐしでササッと直し、汗臭くないかを歩きながらチェックしていく、すれ違う人達はチラっと零士の事を見ながら微笑んだりしているが、零士は気がついていない。その行為は傍から見れば『え、何してるだろあの人』と思わせるくらい片手を上げて自分の脇の臭いを嗅いでいる、そりゃ笑われても仕方がない。


 アレコレと気にしながら歩いていると噴水広場にやって来た、千景の姿をキョロキョロと探しているが見つからない、まだ来ていないのか目立つ黒髪少女はどこにも居ない。


 駅前広場には大きな噴水が設置されていて、待ち合わせなら絶対に噴水のある駅前でが当たり前、現に零士以外にも女の子を連れた男子や大人のカップルもあっちこっちに出現している。


 ちなみにボッチで来たくない場所ナンバーワンでもある、何故ならば来たら虚しくなるから。





「すみません、お待たせしました」


「あぁ、別に今来たとこ…………ろ」


「あの、どうかしましたか?」



 声がした方へ返事をしながら振り向くと零士は固まってしまった、普段着を余り見慣れていないのもあるが今回ばかりはちょっと違う。いつもより艶やかで指を入れればサラッと流してしまうような黒い長髪、薄水色のワンピースに丈が短い白いシャツ、美脚と言っても過言ではないスラットした足。


 自分でもアホだなって思うくらい今の千影はめちゃくちゃ可愛いく見えている、その辺の女の子とは比べ物にならないくらい可愛い。




「あのー、零士さん?」


「え? あ、あー! ごめんな! とりあえずどうしようかな〜」


(ヤバイ、目を合わせられない)



 心情はどうであれ零士と千景の一日デートが今始まった。




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