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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
12/26

第1章10 『安静』

よろしくお願いします、毎週水曜日と土曜日更新です。








 何て温かいのだろう。

 見ている夢の景色は一面ホワイトアウトで、立っているのか座っているのかわからない。


 生まれてから今まで良くも悪くも夢は見続けてきた、だがここまで温もりのある夢はこれが初めてで、胸の鼓動が脈打つ度に身体中を駆け巡る気持ちよさ。


 そして左手のひらは汗ばむくらいに熱く、つい手の甲に視線がいってしまう。そこにはあるはずの『印』が無い、夢のせいなのかわからないが不思議と気にならなかった。


 元はただの人間で霊滅師(れいめつし)なんかじゃない、印が無いのが本来の姿。零士は何故かホッとしてしまう、あの夜戦った自分は自分じゃないような気がした。意識はハッキリとしていたが、操り人形のように糸で身体を動かされていた気分だった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 まだ頭はぼーっとしている零士、まだ軽い頭痛が残っているが身体の気だるさ自体は無くなった。いつの間にかベッドに寝かされている状況に少し驚くが、今朝の出来事を少しずつ思い出す。


 学校に行く準備をしている時、急に身体が鉛のように重くなった零士、原因は昨夜の戦いで吸引した霊鬼(れいき)を身体に留めたままにしたからだ。本来ならばそれを霊脈に流さなければならないのだが、あの自称『救世主』は『試しに邪魂(じゃこん)を体内に留めてみよ』と零士に告げてその場から気配を消した。


 それが今回の急激な体調の変化へと繋がった、ではどうして今の零士は回復しつつあるのか、それは霊滅師の霊力にある。


 霊力自体は血液のように体内を流れていて、邪魂の力を希釈するように薄めていき、時間を掛けて消滅させているからだ。実際はそこまで時間は掛からないのだが、零士の霊力は即席で出来上がったに過ぎず、一般霊滅師の2倍程の時間が必要となった。




「暑い…………」



 布団から出ようと身体を起こすと、ずっと何かに握られている事に気がつく。自分の左手を見ると白く細い手が優しくも強く、離す気がない程にしっかりと握り締めている手。


 そして零士の耳に入ってくる寝息、そっと横を見てみると。




「零士…………さん……すぅ」


千影(ちかげ)…………」


「私が…………居ますから」



 学校の制服を着たまま寝てしまった千景、窓から射し込む夕日は長く黒い髪を煌びやかに仕立てる。床に目を向けると鞄から飛び出してしまったプリント、その隣には薬局のビニール袋が置かれていた。


 千影が握る零士の左手の甲には大きめの絆創膏、そこにはあの印がある。剥がさなくてもほんのり熱を帯びていて存在している事がわかる、そして千景にも包帯で巻かれた左手に印がある。


 零士のようにまがい物では無く、生まれ持った力であり人を救う力。まがい物が正しい言葉なのか? 霊力自体存在していてはいけないのでは? 途中まで考えていた零士だが頭をフルフルと左右に振り、今考えるのはやめた。




「千影、千影さーん」


「ん…………れいじさん……………零士さん!?」


「おはよう」


「は、はい。おはようございます…………ってそうではありません! もう大丈夫なのですか?」


「うん、この通りさ」




 ベッドから出るとボディービルダーのようにポーズを決める、実際はまだ頭痛と立ちくらみが残っている、それでも千影には心配を掛けたくない零士はふざけながら『もう大丈夫』とアピール。


 その一連の行動を見たあと『はぁ、よかったです』と安堵した千景。その後に今日学校で配られたプリントや、買ってきた薬などを零士に渡し、少し無言の時間が流れていく。


 何度も2人になる事はあっても甘いような時間に繋がったりはしなかった、と言うのもお互いに気持ちを口にするのが恥ずかしかったり、邪魔が入りそうな空気感を読み取ってしまったりで2人になっても世間話になりがち。


 でも今はちょっと違うようで、なんとも言い難い空気の中零士と千影は心臓のスピードを上げてしまう、何を話せばいいのかわからず2人共フリーズしてしまっている。




「あ、あのさ」

「あ、あの」



 ほぼ同時に発した声に2人は目を点にする、初めて付き合い出したカップルでもないのに顔を真っ赤にし、視線を下に向けて俯いてしまう。何とももどかしい、零士はベッドの上でチラチラと千景を見たり、当の彼女は正座をしてスカートの端をギュッと握りしめている。


 少し深呼吸をした後、零士は口を再び開き千影にある提案をする。




「あ、明日は土曜日だしさ。約束してたデートをしないか?」


「で、デートですか? それはもちろん行きたいです、でも零士さんの体調が心配ですし」


「俺なら大丈夫だよ、もう元気だし、うん」


「わかりました、で、では明日は待ち合わせをしましょう」



 出掛ける時は基本的に正輝を誘って街に遊びに行っていたが、今回は本当に2人っきりで恋人だけのお出かけ、デートらしいデートをした事がない2人はさらに緊張感を増していく。


 どこに行けばいいのかどこなら喜んでくれるのか、零士は頭をフル回転させて必死に考える。千影はどんなお洋服で行けばいいのかお洒落は派手の方がいいのか、初々しい2人は『うーん』と唸りながら1時間以上悩んでいた。


 結果的に待ち合わせは駅前広場に10時集合になり、零士はデートスポットを探すために真妃(しんき)からパソコンを借りる事に決めた、スマホで探せばいいのだがパソコンの方が調べなれている零士、きっと真妃に茶々を入れられるだろう。


 それでも大切な人の為に、千影が帰った後零士は夜になると真妃の部屋へ向かうことにした。

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