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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章幕間 『潜む影』








「ふぅ…………」


 公園に霊鬼(れいき)が出現したのを確認し、そこに3人の霊滅師(れいめつし)が戦っているのも見つけた。暗い公園の中心で月の光を刀が反射し、振るたびに光の筋が放物線を描いている。


 三階建てのビルにあるアンテナに乗っている零士(れいじ)は、霊鬼と奮闘している3人の様子を伺っていた。暴れたり叫んだりしている霊鬼を見事な作戦で追い詰めていく3人、ずっとそうやって夜な夜な戦ってきたのだろう、刀さばきは惚れ惚れしてしまうくらいだ。


 特に真妃(しんき)の刀の扱いは美しい、あの硬そうな霊鬼の皮膚をまるで生ハムを切り裂いていくようで動きに無駄が無い。まるで演舞(ダンス)を踊っているように見える、真妃は巽流派(たつみ)の心得があり、祖父である巽左之助(たつみさのすけ)の門下生だった。何年も剣術の腕を磨き手に入れた免許皆伝、当時の真妃は敵無しとまで言われるほど強く、今でも『巽の真剣』と呼ばれている。




「あ、倒したのか?」



 色々考えながら3人の様子を見ていた零士、気がつけば霊鬼の姿は光に包まれてある一点に吸い込まれていく、その作業が終わったのか地面に座り込むのも確認できた。だが零士は強い霊力を感じていた、3人は疲れていて気がついていないのか動きは全く無い。


 邪魂(じゃこん)が発生するような弱い霊力ではない、霊鬼が出現した時に感じる重苦しい霊力が零士に伝わってきた。だが一つ腑に落ちないことがある、通常では邪魂が邪魂を引き寄せ合い固まった姿が霊鬼となる、しかし今感じているのは邪魂が引き寄せあってできた霊力ではなく、最初から霊鬼として現れたような霊力。




「なんだ、この感じは」


『霊鬼だ』


「誰だ!?」



 独り言を呟いていたつもりだった、だがその独り言に返事をした声、慌てて振り返り姿を探すが形なんて有りもしない。確かにすぐ真横から声が聞こえてきた、まるでずっと一緒に居たかのように。


 一瞬焦る気持ちになったが少し冷静になって考える、この声には聞き覚えがある、悪夢に出てきた声の主にそっくりだ。別に不思議なことなんて無かった、今の零士が手にした力は声の主から与えられたモノなのだから。




『誰とは失礼だな、お前に取っては救世主だろう?』


「救ってほしいとは言ってない」


『まぁいいだろう、それより霊鬼が現れるぞ』


「邪魂じゃなく、なんで最初から霊鬼なんだ?」



 姿形が無いのに真横から声がする違和感、慣れればきっと大丈夫だろう、そう思いながら声の主に質問をする。夜風が少し強く吹く中でもソイツの声は鮮明に聞き取れる、妖精か何かと会話していると思えば少し気は楽になれた。




『そんなのは簡単だ、召喚されたのだ』


「召喚って誰かが呼び出したってことか? そんな事ができるのか?」


『あぁ、霊を消滅させる人間が居るならその逆も存在している』


「初めて聞いたぞ」




 声の主の話によると霊鬼を呼び出したのは『再霊師(さいれいし)』のしわざ、当たり前だが邪魂や霊鬼が地上に現れると霊脈が乱れてしまい、思わぬ天災を引き起こしてしまう可能性がある。


 それを阻止するために霊滅師が存在しているわけだが、何らかの理由により霊脈から霊力を引き出して呼び出したり、生きてる人間から負のオーラを取り出して邪魂にし呼び寄せ合わせたりして霊鬼にする、それを召喚と呼んでいるようだ。


 霊滅師とは違い再霊師は個人によって召喚する訳が違うらしく真相は謎、一番多い理由が『大切な人を呼び戻す』ことのようだが、成功したものは居ない上に失敗すれば自分の身を滅ぼしてしまう。


 大きなリスクを背負ってでも復活させたい、そんな人間が今の世の中には沢山存在していると話す。




『今はそんなことどうでもよい、あの鬼を見ろ』



 怒りの咆哮を上げては3人に襲いかかる、不意をつかれたことにより体制を整えるのに時間が掛かっている、このままでは不味いだろう。自然と刀を握る手に力が入る、今目の前には大事な友達と家族同然の姉、そして大切な恋人が窮地に追い込まれている。


 ずっとこうして見ている訳にはいかない、姿勢を低く取りながら一撃で仕留める技のポーズを取る、零士は真妃から刀の扱い方や巽流派の技を教えてもらってきた。それでも実際に真剣を握り敵を仕留めに掛かるのはこれが初めてだ、少し手が震える、鞘と刃の部分がカチカチと当たる音が聞こえる。




『なに、大丈夫だ。お前は我が力を手に入れたのだ、負けたりしない』


「集中できない、静かにしてくれ」


『フっ、フハハハハハハッ!! いいだろう、殺って見せろ』



 風がフワッと吹いた瞬間声の主の存在が消え去った、一度深呼吸をした後霊鬼の心臓だけに視線を置く、大きく腕を振り上げて一撃を入れようとまた咆哮を上げた時だった。


 霊鬼の中心部分である心臓が光ったように見えた、もうその時にはアンテナを蹴っていた零士、高速で降下しながら刀を逆手に持ち替え霊鬼の身体ど真ん中に突き刺し着地。




「ハァ!!!!」


「グオオオオオオッッッッ!?」



 誰も居なかったはずの後ろから奇襲を受けた霊鬼、突然の出来事に反撃する考えすら思いつかないようだ。暴れようとする霊鬼の身体から刀を引き抜き、ジャンプして公園の街灯の上に乗り移る。引き抜いた場所から大量の邪魂が湧き出てくるのを確認、零士は手の甲を突き出し邪魂を吸引していく。


 零士はアンテナから霊鬼に辿り着くまでの間に何かを感じていた、まるで敷かれたレールに乗って必ず終着駅に着くような感覚。初めて抜刀してしかも一発で成功するだなんて有り得ない、いくら数年修行したからと言って初実践でやり遂げるだなんて、可能性としてはかなり低い。


 それでも成功した理由はきっと一つだけ、




 ―――これが霊滅師の力




 それ以外の答えはもちろん無い。零士は全て吸引し終わると真妃に話しかけられる、その質問は良くある『名を名乗れ』だ。そのまま名乗るわけにもいかないと考えていると手に持つ刀が目に入り思わず、




「俺はオニガリ」



 その一言だけを3人に伝えて、零士はその場を去った。




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