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異世界へようこそ 【改訂版】  作者: 飛狼
第四章 邂逅と襲来
44/55

◇労多くして功少なしというけれど。

「こいつで最後だぁ!」


 俺の繰り出したサーベルの刃が、ガーゴイルの翼を斬り裂く。


『アギイィィィィ……!』


 片翼を欠いたガーゴイルは叫び声を上げると、バランスを崩し転がるように甲板上に着地する。そのガーゴイルの頭を、透かさずカレリンが手に持つ鉄棒で力任せに「ゴッ!」と、鈍い音を響かせ殴り付けていた。

 カレリンの後にはタンガが続き、大剣を頭上高く振り上げている。その大剣は魔素が絡み付き微かに赤い光を放つ。


「はぁっ!」


 短い気合いと共にタンガの持つ大剣は、蹌踉よろめき床に横たわったガーゴイルの首筋目掛けて振り下ろされた。寸分の狂いもなく首筋に達した大剣が、ガーゴイルの太い首筋をあっさりと断ち斬る。ごろりと転がり落ちるガーゴイルの首。その首筋からは噴水のように緑色の血流が溢れ出し、甲板の上を濡らしていた。


「ふぅ……こいつで終わりか?」


 タンガがほっと安堵の息を吐き出し、にやりと笑って見せる。


 おっ、なんだか、タンガが格好良く見えたぞ。

 くそっ、脳筋タンガのくせに……。


「そうだな、そいつで最後のガーゴイルのようだ」


 急襲を仕掛けてきたガーゴイルの群れ。その最後の一匹を倒し、俺も空中から甲板に駈け降りると、タンガにならって安堵の吐息をもらした。

 タンガ達も、地上戦とは違って狭い船の上での戦い。ましてや、相手は空中から襲って来るガーゴイル達。かなり苦労していたようだが、俺が船に戻り空中戦でガーゴイル達を叩き落とすと、あっさり形勢は逆転したのだ。

 因みに、今のガーゴイルもそうだが、止めを刺すのはタンガやカレリン達。残りの魔力量に不安を感じていた俺は攻撃系のスキルを控え、もっぱらガーゴイルの翼を傷付け叩き落とす事に専念していたのだ。

 だから結局、俺が止めを刺し手に入れた経験値となる魔石は……。


 ――苦労したわりには、手に入れた魔石は2つだけかよ。


 脳筋馬鹿のタンガめ、止めを刺すガーゴイルを俺のために残しとけよ、たくっ。まあ、あの状況ではそんな余裕もなく、仕方がない事なんだが。

 それに、止めを刺した魔獣から得る魔石で経験値を吸収できる事は、まだ誰にも話していないのだ。

 だから、俺は嘆くように小さな溜め息を吐き出し、がっくりと肩を落とすしかなかった。


 それにしても、さすがは獣人の中でもトップクラスのタンガ。大剣に纏わせていたのを、タンガたち獣人は気と称しているが、あれは確かに魔素だ。

 VRMMOゲーム『ゼノン・クロニクル』の中でもそうだったが、獣人は大気に漂う魔素を魔力に変換するのは苦手だった。だが、自分の中に存在する魔素を扱うのを得意としていた。それが、獣人の固有スキルともいえる【魔素操作】だ。魔素を体に纏わせる【身体強化】もそうだが、魔素を体の一部となし相手に向かって飛ばす【クロー】系などはその最たるものだろう。今、タンガが使って見せたのも、大剣に魔素を纏わせ硬度と切れ味を増す【武装強化】のはずだ。


 周りを見渡すと、水夫達も肩を抱き合い喜びの歓声を上げていた。


「しかし驚いたな、大将。あんたは何者なんだ。ヒューマンにしてはあまりにも規格外だぜ」


 カレリンも、片方しかない隻眼を和ませ安堵した表情を見せるが、その声音は驚きに満ちていた。

 まあ、俺の戦ってる姿を見ていたのだろうから、当然といえば当然なのだが。しかし、見た目が海賊そのものなカレリンから大将とか呼ばれると、俺が海賊の親玉みたいに見えるから勘弁してほしいものだ。


「そうだぜ旦那。本当に旦那は……うがっ!」


 傍らにいたカーティスも驚いたように俺に話し掛けてくるが、その途中で背後から駆け寄るカイナに突き飛ばされていた。


「あんた邪魔なのよ!」


「リュウイチ様ぁ……」


 駆け寄るカリナとカイナが、左右から俺に抱き付く。いつもは憎まれ口を叩くカイナも、この時ばかりはほっとした様子を見せていた。


「いてってて……カイナ嬢ちゃん、酷いぜ」


 床に引っくり返ってたカーティスが、ぶつぶつと文句を言いながら腰を擦って起き上がる。


「そんな所に、ぼぉと立ってるあんたが悪いのよ」


「ひでえぇ、そりゃないぜ、カイナ嬢ちゃん」


 口を尖らせ文句を言うカイナに、カーティスが泣き言を漏らす。


「カイナ! はしたないわよ!」


 見かねたカリナが眉をしかめ、カイナに注意をしていた。しかし、それでもカイナは白い歯を見せ、「イィィ」と不満気な顔をカーティスに向けていた。


 本当になんとも、相変わらずらしいというか、良くサンタール家で侍女をしてられたよな、カイナは……。


「それにしても旦那、本当に何者なんですか?」


 まだ、ぶつけた腰が痛いのか、カーティスは顔を歪めつつ立ち上がり、もう一度尋ねてくる。

 しかも、カーティスばかりか、カレリンやミルコやシウバ達など周りにいや水夫達までもが、俺に注目している。


 ――うぅん、何故かデジャブ。


 前にも、こんな事があったよな。さてと、どう話すかな。こいつらには俺のスキルの数々、『影分身の陣 千人掌』まで見られたからな。


 俺がどう話すか思い悩んでいると、タンガが横から口を挟む。


「おう、こいつはヒューマンの上位種、ハイヒューマンだからな」


 訳知り顔で頷き、そんな事を言うタンガ。

 しかし俺は……。


 ――ん?


 ハイヒューマンって……なんだそりゃ?

 首を傾げる俺に、タンガだけでなく、カリナまで不思議そうな顔を向けてくる。


 ――あっ!


 そうそう、そんな設定の話をしてたっけ。すっかり、忘れてたわ、ハハ。

 しかし、まずいな……あの時は、どんな話をしてたっけ。確か、過去から飛ばされて来たとか何とか……よく覚えてねえな、ハハハ。

 適当に話を繋げて、物語を作ってたからなあ。


 周りにいる皆は、俺から話を聞きたそうに、黙って見詰めてくる。

 おぉ、この静寂が怖いってか?


 おい、タンガ。覚えてるなら、お前が話せよ。

 そんな事を思いつつタンガを見ると、俺からもう一度話を聞く気が満々で見詰めてくる。


 ――ちっ、使えねえやつ。


 しかも、カリナまでが、キラキラと瞳を輝かせて俺を見詰めてる。

 その視線が痛いです。


 俺が頭をガシガシと掻きむしってると、カーティスが恐る恐る声を掛けてくる。


「旦那ぁ……ハイヒューマンって……やっぱり、死んだ婆さんが言っていた、ヒューマンの英雄となるお人なのか……」


 げっ、こいつもなんか、勘違いしてやがる。


「そ、それなら旦那、妹を……」


 カーティスが何か、懇願するように言い掛けたが、またしても途中で言葉が途切れる。

 しかし、今度は南の洋上に目を向けたまま、驚愕に大きく目を見開いていた。


「ん?」


 何かあるのか?

 振り返り、南の洋上に目を向け俺も絶句する。

 周りにいる皆も、ごくりと喉を鳴らして南に視線を向けていた。

 そして、タンガが呟いた。


「ガ、ガーゴイル……」


 そう、またしてもガーゴイルの群れが、南の彼方に姿を現していたのだ。しかも、今度はさっきの倍以上の数で。


「嘘だろ……」


 誰ともなく呟き、俺達を絶望感が包み込む。

 俺も、今度は魔力が尽き掛けてる。さっきのように、派手にスキルを使う事は出来ない。

 そして、周りにいる水夫達も助かったと安堵して喜んだ後だけに、このガーゴイルの群れの第二波となる襲撃には完全に士気がくじかれていた。


「カレリン! 船を回頭して逃げる訳には……」


 俺が最後まで言う前に、カレリンが険しい顔で首を振る。


「この船はもう、俺達の手から離れてる。舵がまるで利かねえ。まるで、この船自体が意思を持ってるかのように、南に向かってる」


 ちいぃ、あれか! あの海神の像のせいか!


「なら、あの像を、今すぐにも叩き壊せば」


 その言葉に、カレリンはもっと激しく首を振る。


「俺達は船乗りだ。さすがに、海神の像を砕くのにははばかりがある。それに、今さらもう遅いだろう。どう足掻いても間に合わねえ」


 南に目を向けると、ガーゴイルの群れもこちらを認識してか、速度を上げて此方に向かって来るのが見えた。その上あろうことか、このミラキュラス号まで更に速度を増している。それこそ、自ら死地へと飛び込もうとしているように。


 ――くっ! 馬鹿な……。


 ガーゴイルの数は、最前の倍以上。水夫達の士気は最低。俺もさっきのようにはスキルは使えない。


 正に三重苦。ゲームではない現実の世界では、波状攻撃を行うのは当然の事。

 俺は自分の甘い考えを噛み締め、左右でしがみ付くカリナとカイナをギュッと抱き締めた。そして、これから起きるであろう死闘に、その身を震わせていたのだ。


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