放課後の羽沢君
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その日の放課後、私は訳あって教室にひとりで残っていた。
「…えーっと今日のクラスの様子は…いつも通り、でいっか。」
まあ、ただの日誌書きなんだけど。
今日の日直の当番の子が欠席なので変わりに日誌を書くように担任の先生から頼まれた。
どうせゆずが部活終わるの待ってることだしいいや。
数分後、時間はそんなにかからず日誌を書き終えることが出来た。
「…よし、職員室に行って渡してこよっと。」
教室から出て驚く。
なんというバッドタイミング。
「羽沢君っ…私、羽沢君のことが好き…!」
運悪く私が教室を出たタイミングで告白イベントが発生していた。
しかも、そのお相手は羽沢君。
「最悪だ…。」
これじゃ教室から出れないし…。
それに…。
「そっか、ありがとう」
羽沢君があの子になんて言ってるか聞きたくない。
「…っ。」
耳を塞ぎ、教室の端で体育座りをして彼らがどこかに行くのをひたすら待った。
しばらくしてドアをそーっと開けてみるとそこには人の気配はなく、ただ暗い廊下が奥まで続いているだけだった。
「…はぁぁぁぁ。やっと終わった…。」
「なにが?」
ポン、と肩に置かれた手を見てびっくりする。
「は、羽沢君!」
「もう誰も学校に残ってないのに、珍しいね。」
もう帰ったんじゃなかったの…。
「日誌を書いてて…。今から先生に出しに行こうかなーと。」
「へぇ。…あ、良かったらそれ終わったら一緒に帰らない?」
「えっ。」
羽沢君から帰るのに誘われた…!!!
こんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
…羽沢君と一緒に帰れるなんて。
あ…。でも今日はゆずと帰るのを待ってて…。
「ごめん、先に約束してるから。」
本当はすごくすごく嬉しかったけど冷たい言い方をしてしまう。
「…そっかぁー。」
彼は困ったように笑った。
「えっとー、じゃあ…俺はもう帰るねっ!」
当たり前だけど、彼は私と話すことなんて特にないのだろう。
私が一緒に帰るのを断るとすぐに昇降口の方に身体を翻した。
断ったのは私なのに…少し寂しい。
もっと、話をしてみたい。
もっと、羽沢君のこと知りたい。
「あのさっ。」
「ひゃいっ!」
急にくるっとこちらを向いた彼に驚き、変な声が出てしまった。
「えっとー名前…まだ聞いてなかったよね。教えてよ」
もう帰ってしまうものと思っていたから、まだ彼と会話を続けられることに戸惑う。
でも嬉しい。
「禾谷伊桜…。えっと、、いおって言います!」
「なんでニヤけてるの笑…いお、ね。分かった!」
羽沢君に名前を呼ばれさらに口角が緩まる。
嬉しい嬉しい嬉しい。
彼はこの前の時のようにふわり、と笑った。
「いおちゃん、友達待ってるんだよね?その子が来るまで話そうよ。」
「…うん。」
私は俯きながらも、思わず笑みがこぼれた。