第一章・評論
(……ちょっと大臣。どう思うかしら、あれ。どう考えても文章力が高いようには見えないんですけど)
(そうでしょうか? 受け答えは別に問題はないと思いますが)
(受け答え以前の問題よ。なんというか、文が危うい。句読点が全体的におかしいし、所々二重表現あるし、光の擬音を文字であらわしてるせいで間が抜けてるし、一人称の地の文だったはずが一瞬だけ『彼の名は冥神 剣護』って三人称に切り替わったし、黙って頷いたって言いつつ黙ってないし。あと『召喚した』って言ったのに『異世界転生してしまった』って反応するのは、明らかに転生と召喚をごっちゃにしてておかしいし。そして感情表現が足りなさすぎる。地の文は『いったいなんなんだ』以外は最低限の状況報告しか書けてないし、召喚された驚きも『いったいなんなんだ』しかないのは酷いと思う)
(我慢してくださいませ。文章力が低くとも、勇者なのは間違いありませんゆえ)
(いや、でも魔王は倒せないでしょ……。あの文章力じゃ倒す前に飽きて打ち切りになるのが限度でしょう……)
(い、いやいや。まだ分かりませんぞ! 一話だけで判断してはいけません!)
(いや、あれは絶対『先を考えず有名なサイトでちやほやされたい一心で小説投稿したけど、評価されないからそのまま飽きていく』ってタイプよ。全体的に一行の文字量が少ない事と名前が無駄に中二な所から、その事が読み取れるわ。それに一話だけで判断するのは当然でしょ? だんだんつまらなくなるだけなら『この後最初みたいに面白くなるかも』って読み続ける人はいるだろうけど、一話が駄目だと以降がどんなに面白くてもそれを見られる前に『あ、これは駄目だ。ほかの作品を見に行こう』ってなるのよ。序盤が楽しめないようじゃ、この先やっていけないわ)
(ですが新しく勇者を召喚する余裕はこの国にはありません。あの勇者がこの国の最後の希望なのです)
(あんな希望、私はいやよ。私の事を『白雪姫』とか表現してんのよ? 他所の登場人物を引用しないと外見の説明ができないレベルで描写力が乏しいのよ? この先『激戦を戦い抜いたので傷だらけになった漆黒のフルフェイスアーマーを身にまとっているが、人間に殺された娘のくれた子供っぽい手作りアクセサリーを大事に身に着けている悲しみの幽霊騎士』みたいな、外見の特徴も重要なキャラが出てきても『××ってゲームの●●って敵キャラみたいだ』とだけ表現して台無しにするに決まってるわ。もしもこの世界の表現も『●●のラノベみたいな世界』だなんて表現されたら、私なら恥ずかしくて舌を噛み切るわねっ!)
(が、我慢してください! 文章力は無くとも、力は強力なので何とかなるはずです! 多分……)
(くそっ! あんな『面白い拒否の言い回しが思いつかないから流行になったフレーズを入れよう!』とか思ってる、センス無いのに流行に乗りたがるおっさんみたいな文章力の勇者なんていらなかったのにっ! もっと魔力があれば、現代作家の権威並の文章力を持った勇者も呼べただろうに! 悔しすぎるっ!)
(ま、まぁでも、文章力などどうでもよいではないですか。問題は戦う能力ですぞ)
(むぅ、じゃあ戦闘能力も見て判断するかしら。気は乗らないけど……)