オンラインゲームを始めよう@その2「手に入れたレア」
「オンラインゲームを始めよう」の後日譚的ななにかです。
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「あ、レアゲット」
廃坑がダンジョン化したマップを探索中、金髪女エルフの樹守銃士が呟いた。
「ここでのレアは『ネコミミ』。――樹守銃士が猫耳?」
口元を押さえるが耐え切れない。思わず吹き出したのは暗色の少女――影虚術女だった。纏った影と血色の悪さからくるダークな仮想の体は、吐血する勢いで咳き込み出す。
「あ、ダメージですか、回復しますか」
白魔女子が問いながら回復スキルを起動展開。
「ち、ちがっ」
影虚術女は顔の大半を隠す黒髪を揺らして否定する。
原因は主に、笑い。
「ね、猫耳エルフが真顔で――がっふ」
妄言の途中、樹守銃士が剣先を振るって弾き飛ばす。
坑道に這う少女。
「笑うな。ってゆーか、まだ装備もしてないのに良く笑えるな!」
「性能良好。使うに決まってる」
無傷で起き上がった影虚術女が服を払った。
「使いませーん。アタシは見た目重視でーす」
「ソロのとき凄い格好して――がっふ」
「言うな言うな言うな。もうしてないもん」
再び剣を振るわれた影虚術女が起き上がる。
「ここはパーティメンバー同士のダメージが無効。白魔女子は安心するべき」
「そ、そうなんですねっ」
吐血が見えるのは個人的な演出設定だと影虚術女は告げる。
「だから色々言っても、平気」
「不埒な言動を慎む発想はないんかいっ」
「妄想は当然の権利」
今度の刺突は影虚術女を捉えられない。ゆらりと動いた朧な影が阻害する。
「避けるなっ」
「これも当然の権利」
攻撃スキルの行使音が響く中、ぽつりと白魔女子が問いを零した。
「ところでレアってなんですか?」
――シン、と坑道は静寂を取り戻す。
「…………おーぅ」「希少価値。二重の意味で」
初心者らしい質問はふたりの争いに終止符を打った。
「レア。レアアイテム。貴重な品ってこと」
「理由は様々。今回の『ネコミミ』はこの場所で極めて稀に獲得できる装備品。でもこの場所は人気がない。出回っている数は少数。その割に偏った層に需要がある。性能も良くて取引価格も高い。だからレア」
何度も頷きながら話を聞く白魔女子。
「す、凄いですね、おめでとうございます。キシュさんは装備しないんですか?」
「――ッ」「――っ」
赤面する樹守銃士。吐血する影虚術女。
きょとんとした白魔女子は「え? あれ?」と繰り返す。
「装備、しない……絶対っ」
「本当に希少価値。シロマは〈天然の恐怖〉に相応しい」
「なちゅら……?」
「敵の名称。〈手に負えない自然〉は数人集めても全滅することがある強敵」
「わ、わたしそんな凄くないですっ」
必死の否定に対して、樹守銃士の口から乾いた笑いが零れ出る。
「あ、あの。でも良い装備なのにどうして使わないんですか」
「――み、見た目がアレだから」
不思議そうにする白魔女子。
「み、見てみたいな、とか……」
「そんなご無体な。無茶をおっしゃらず、平に平にご容赦を……」
樹守銃士は遠い目で謎の演技を始め出す。
「す、すみません」
「本人にとって価値があるレアは入手困難。要らないものは売却が最善」
「そ、そういうものなんですね」
ふむふむと頷く白魔女子。
「探索再開。キシュも元気出して」
樹守銃士の澱んだ空気を影虚術女が叩いて払った。
進み出したところで振り返る。白魔女子がついて来ない。
「どうかした?」
「わたしじゃ手に入れても価値がわからないなぁって」
「価値が判らない場合は、限界まで所持しておくのが最善」
「わ、わかりましたっ」
うっかり手放して後悔することは、意外と多いから。