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オンラインゲームを始めよう

オンラインゲームを始めよう@その2「手に入れたレア」

作者: 川三倉巡

「オンラインゲームを始めよう」の後日譚的ななにかです。

URL : http://ncode.syosetu.com/n2972bu/

「あ、レアゲット」


 廃坑がダンジョン化したマップを探索中、金髪女エルフの樹守銃士(じゅしゅじゅうし)が呟いた。


「ここでのレアは『ネコミミ』。――樹守銃士(キシュ)が猫耳?」


 口元を押さえるが耐え切れない。思わず吹き出したのは暗色の少女――影虚術女(えいこじゅつじょ)だった。纏った影と血色の悪さからくるダークな仮想の体(アバター)は、吐血する勢いで咳き込み出す。


「あ、ダメージですか、回復しますか」


 白魔女子(しろまじょこ)が問いながら回復(ヒール)スキルを起動展開。


「ち、ちがっ」


 影虚術女は顔の大半を隠す黒髪を揺らして否定する。

 原因は主に、笑い。


「ね、猫耳エルフが真顔で――がっふ」


 妄言の途中、樹守銃士が剣先を振るって弾き飛ばす。

 坑道に這う少女。


「笑うな。ってゆーか、まだ装備もしてないのに良く笑えるな!」

「性能良好。使うに決まってる」


 無傷で起き上がった影虚術女が服を払った。


「使いませーん。アタシは見た目重視でーす」

「ソロのとき凄い格好して――がっふ」

「言うな言うな言うな。もうしてないもん」


 再び剣を振るわれた影虚術女が起き上がる。


「ここはパーティメンバー同士のダメージが無効。白魔女子(シロマ)は安心するべき」

「そ、そうなんですねっ」


 吐血が見えるのは個人的な演出設定だと影虚術女は告げる。


「だから色々言っても、平気」

「不埒な言動を慎む発想はないんかいっ」

「妄想は当然の権利」


 今度の刺突は影虚術女を捉えられない。ゆらりと動いた朧な影が阻害する。


「避けるなっ」

「これも当然の権利」


 攻撃(アタック)スキルの行使音が響く中、ぽつりと白魔女子が問いを零した。


「ところでレアってなんですか?」


 ――シン、と坑道は静寂を取り戻す。


「…………おーぅ」「希少価値。二重の意味で」


 初心者らしい質問はふたりの争いに終止符を打った。


「レア。レアアイテム。貴重な品ってこと」

「理由は様々。今回の『ネコミミ』はこの場所で極めて稀に獲得できる装備品。でもこの場所は人気がない。出回っている数は少数。その割に偏った層に需要がある。性能も良くて取引価格も高い。だからレア」


 何度も頷きながら話を聞く白魔女子。


「す、凄いですね、おめでとうございます。キシュさんは装備しないんですか?」

「――ッ」「――っ」 


 赤面する樹守銃士。吐血する影虚術女。

 きょとんとした白魔女子は「え? あれ?」と繰り返す。


「装備、しない……絶対っ」

「本当に希少価値。シロマは〈天然の恐怖(ナチュラルテラー)〉に相応しい」

「なちゅら……?」

「敵の名称。〈手に負えない自然(ナチュラルテラー)〉は数人集めても全滅することがある強敵」

「わ、わたしそんな凄くないですっ」


 必死の否定に対して、樹守銃士の口から乾いた笑いが零れ出る。


「あ、あの。でも良い装備なのにどうして使わないんですか」

「――み、見た目がアレだから」


 不思議そうにする白魔女子。


「み、見てみたいな、とか……」

「そんなご無体な。無茶をおっしゃらず、平に平にご容赦を……」


 樹守銃士は遠い目で謎の演技(ロール)を始め出す。


「す、すみません」

「本人にとって価値があるレアは入手困難。要らないものは売却が最善」

「そ、そういうものなんですね」


 ふむふむと頷く白魔女子。


「探索再開。キシュも元気出して」


 樹守銃士の澱んだ空気を影虚術女が叩いて払った。

 進み出したところで振り返る。白魔女子がついて来ない。


「どうかした?」

「わたしじゃ手に入れても価値がわからないなぁって」

「価値が判らない場合は、限界まで所持しておくのが最善」

「わ、わかりましたっ」


 うっかり手放して後悔することは、意外と多いから。

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