試合前の主将任命
「お、来たな」
何か話だろうか。ていうか話か。
「………どうしたんですか?まさかエース交代?」
「………なわけなかろう」
少しホッとした。割とマジで聞いていたから。
「今週の土曜日、ダブルヘッダーがあるよな?」
「はい………確か、霧校ですよね?」
霧校、と言うのは、霧ヶ峰高校という甲子園の名門校だ。
わざわざ福島県から来てくれるそうだ。
「そう。その2試合目に、新人戦想定の試合をすることにした」
「し、新人戦想定!?」
2年生の俺たちにとってはまたとないチャンス。これに食いつかないはずがない。
「そう。向こうも新人チームを出すそうだ。それでだな謡雅……」
ゴクリ、と息を飲んでしまった。
「お前には、その試合でキャプテンをしてほしいと思う」
「キャ………キャプテン、ですか!?」
「ああ。三年生にはもうこれを伝えてある。今日から新人投手陣を鍛えたいと思う」
最初は信じられなかった。今日は火曜日だから、あと4回ほどまともな練習ができる。
「準備させるのは………」
俺はその練習が楽しみで仕方がなかった。
―――放課後―――
「謡雅君?どうしたの?すごい楽しみそうな顔してるよ」
「フフ、フフフ………」
「全員集まれ!!!波業!!!」
「集合ッ!」
キャプテンの波業駈麻さん。ショートのレギュラーで、4番バッター。
「霧校との新人戦想定試合が決まった!」
たちまち1、2年がざわつく。
「そこで、今日は1、2年のバッテリーを組みたいと思う!」
さらにざわつく。それもそのはず。いつもは控えの2年選手が出られるのだから。
「まずは謡雅だが………」
誰だろうなー!
多分、凄いにやけてると思う。
「………今回は六崎に任せようと思う」
瞬間、ザワッとなる。
当たり前だ。一年の女子がエースのキャッチャーだ。ザワつかないわけがない。
「そして次に、矢部!」
「えっ?は、はい!」
「矢部は………工藤とやれ」
工藤義高。二年生の控えの内野手。どこでも守れるユーティリティな所が武器。ついでに足も早い。
「それと………いや、今日はこんな感じだ」
俺は誰がやるか知っているが………
ま、言わないでおこう。
そして軽くキャッチボールを済ませ、桃真とブルペンに入った。
「どうだ?ブルペンに入ってみて」
「謡雅が朝呼ばれたのって、この件?」
「ああ。この件だよ」
「やっぱりそうなんだ。僕がピッチャーかぁ、って感じだなぁ」
気負うなって、と言って一球目を投げる。
バシィン!!!
「いい音ならすなぁ………やっぱり」
「………それほどでも……ない………です」
ですって付け加えたっぽいな………
「うわ、速いなぁ………負けてらんないな」
そう言うと矢部は投げた。
グオッ!
ドン!!!
「うお、意外と速い。140いってんじゃね?」
「どうだろうね?」
口ではそう言いつつも、内心は嬉しそうだ。
「俺も………負けれね……えよッ!!!」
ドパァン!!!
「謡雅先輩………少し……痛いぞ………」
ありゃ、SFF本気で投げたからとりそこねたかな。
「ごめんごめん!だいじょぶ?」
少し気にしてみる。
大丈夫と言わんばかりの強い眼差s
ズドォン!!!
「…………桃真。玉重すぎじゃね?」
邪魔されたとは言わず、ボールの音ではないことを訪ねてみる。
「うん。なんか凄い音してるね!」
天然なんだかなんなんだか………
「楽しみだな。土曜日」
「楽しみだね。土曜日」
次の日に練習したピッチャーは二人。土曜日は四人で投げるつもりらしい。
―――金曜日部活終了時―――
「明日のスタメンを発表しておく。まずはレギュラーゲームから」
「一番 ピッチャー 謡雅!」
「うっす!」
「二番 センター 矢部!」
「はい!」
「三番 ファースト 結気!」
「ハイッ!」
「四番 ショート 波業!」
「シャーッ!!!」
「五番 サード 火切!」
「はい!」
「六番 ライト 信二!」
「あざっす!」
「七番 レフト 黒崎!」
「ウィッス!」
「八番 セカンド 安保!」
「は、はいっ!」
「九番 キャッチャー 三浦!」
「おす!」
結気流斗。二年生のファーストで、次期四番候補。
火切楓さん。三年生の超強肩サード。
黒崎海さん。ピッチャーもできる万能選手。
安保清輝。二年生セカンドで、チーム1の曲者。
三浦渉さん。三年生キャッチャーで、盗塁阻止率は6割をこえる怪物キャッチャー。
「こんな感じ、か。疲れるなこれ」
「どうしたの謡雅?一人言なんて」
「なんでもないっすよ矢部さん」
「新人チームのオーダーは明日発表する!やる気をもって参加しろ!いいな!」
「「「ハイッ!!!」」」
次回試合になります!1年生の入った小暮高校野球部の初戦はどうなるのか!?
お楽しみに!