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HighSchoolNeverEnds!!◇PRIDE BET GAME  作者: 都神
Main route
8/18

◇乙女のポリシー

 葛城くずはは苛立っていた。早くもってこいと言ってあるプリンがまだ届かない。いつも暇つぶしに使っている海岸沿いの廃工場は薄暗く、潮と錆の臭いが混じって妙な空気が溜まっていた。薄暗くて薄汚い。苛立ちが余計募るような気がする。彼は気を紛らわせるのに本を読む事にした。

 すこしはなれた場所で、くずは同様廃工場を暇つぶしに使う男たちが騒いでいる。

 

「大人しくしろっていってんだよ!」


 バキンと大きい音が聞こえた。人を殴る音だ。次いで、だれかの怒号。

 

「やめろ! 離せよ!」


「このクソアマ調子にのりやがって!」


 それから、ビリビリとなにかを破く音が聞こえる。

 

「やめてください! 離して! 触らないで下さい! やだぁあああっ!」


 くずはは、誰だか知らないがもうすこし静かにして欲しいと考えていた。

 廃工場を暇つぶしに使う人間の顔も名前も、くずはは覚えていない。彼らはなぜかくずはを覚えていて名前を呼んだり暇つぶしの提案をしてきたりするのだが、くずはにはまったく彼らの顔も名前も覚えられなかった。

 毎日顔を合わせている、たとえば両親や弟なんかはギリギリ思い出せるのだが、彼らにしたってたとえば旅行とかで顔を合わせなければ忘れてしまう。

 

 端的にいうと、葛城くずはは病的なまでに人間に興味がもてなかった。

 

 どれもこれも同じ顔に見えるし名前なんて面倒で覚えていられない。計画をたててそれを実行するのは楽しいので、計画を立てて欲しいと言われたら喜んでやるが、それが誰の依頼かなんてくずははいちいち覚えていなかった。

 

 今回、2人の人間をここに連れ去ってくる計画を立てたのも、どんなタイムスケジュールで計画を動かして最終的にどうやって始末するか・・・・・だってきちんと覚えているのだが、駒となる人間や攫ってきた人間の顔や名前をくずははすっかり忘れてしまっていた。

 

 目の前にいるのに思い出せない。

 

 思い出そうとしてやめた。どうせもう使わない知識だ。

 

「いやだ! いやだいやだいやだぁああああああああっ!」


「ヴァレンタイン! ちくしょう! はなせよおまえら! ぶっとばすぞ!」


「てめぇもすこしは大人しくしやがれ!」


 またなにかを殴る音が聞こえる。うるさいなぁ、とくずはは眉をしかめた。茶髪の人間がくずはの足元に転がってくる。腹を蹴られた衝撃でここまで飛んできたらしい。げほげほと咳き込む茶色の頭を靴で踏みつけた。

 

「なにしやがる! ちくしょう、ヴァレンタイン! まってろ! 今助けるからな!」


 ショートカットで身体を縛られた女がなにか叫んでいる。拘束された状態でどうやって他人を助けるのかくずはにはとんと検討がつかなかった。

 いくつか候補をシミュレートしてみて、結局どのプランも不可能だという結論に至ったくずはは、女の言葉を口から出任せだと判断して口元に笑みを浮かべる。

 グリグリと靴底で茶髪を踏みつけると、ハーフアップにした髪が汚れた。泥がついている。きたないなぁとくずはは思った。

 床に転がっているのも髪に土がついているのも怪我をしているのもぜんぶが汚い。

 

 あと、拘束されたまま地面を転がっている様はとても無様だ。

 

 ニコニコと笑ったまま、彼は茶髪を踏みつけ、歌うように告げる。

 

「いもむしみたいですね! もっと暴れないと、乱暴されちゃいますよ?」


 茶髪が酷く脅えた目でくずはを見ていた。目から水分が零れる。色素が抜けた血液だ。きたないなぁと思う。

 男2人がかけよってきて、茶髪を引きずっていた。途中で1人がくずはを振り向き

 

「まざるか?」


 と問いかけるも、くずはは首を振る。

 

「私は本を読んでいますから」


 だって汚いじゃないですか。

 

 という言葉は、喧噪にかき消されて男まで届かなかったらしい。彼は一瞬だけ肩を竦めたあと、すぐ茶髪の肩を掴んで地面に擦りつけた。

 

 ああきたない。

 

「ヴァレンタイン! ちくしょう! はなせ! 触るんじゃねぇ! そいつにも触るな! 近寄るんじゃねぇよっ!」


 いもむしのように地面に転がった女が騒いでいる。汚いなぁ、もう静かにすればいいのに。と思って眉を顰めたくずはは、もうこれ以上イライラが募らないよう、本に精神を集中することにした。

 

――ああはやく、プリンが届かないかな。


――あと10分待ってプリンが届かなかったら、どちらか、壊そうかな。


 まるでゴミを出しに行くように気楽に、無感動に、すこしの気だるさをもって、そんなことを考えたくずはは、表情筋をまったく動かさず静かに本のページを捲ったのだった。

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