◇日頃の行いが悪いから
直樹「激おこ」
同時刻通称『暴食トリオ』の直樹、瑠美、リアトリスがどこにいたかというと、イタリアのフィレンツェだ。
花神楽の旅行代理店からの依頼でツアーの下見に来ているのだ。本来高校生が任されるようなものでもないが、なにせ彼らの手にかかれば一瞬で1900人に店の宣伝を行う事ができる。商品政策に関してもかなりの実績があるため、こうしておいしい仕事を回してもらえるというわけだ。
「……せっかくのイタリア、せっかくのフィレンツェですよー」
瑠美が不機嫌そうに眉を顰める。
天気はあいにくの雨。風も強く、屋根のある場所にいても冷たい雨粒が吹き込んできて身体を濡らす。
「せっかく学校やすんでまで遊びにきたってのに、こんなんアリですか!? ありえねぇですぅ!」
天候のせいか雨にぬれたせいか、彼らの携帯電話は電波を拾わなくなっていた。突然降り出した雨に身体を濡らした直樹が、肩を叩いて雨粒を払い落す。
「本当やんなっちゃうね。早く止めばいいけど」
横でリアトリスが口を尖らせた。
「日本とも連絡とれないですし、今万が一日本で面白いことが起ってたら見逃しそうですー」
「そうならないことを祈ろうか」
ため息をついた直樹の背後で、突然悲鳴が聞こえた。
シニョリーア広場に面したフィレンツェの政庁舎、ヴェッキオ宮殿を、人々が指差して叫んでいる。
直樹たちがなにごとかと目を凝らすと、塔になにかがぶら下がっている。
――男の死体だった。
直樹の頬がひきつる。
「……これなんてハンニバル?」
瑠美はデジタルカメラで死体の写真を撮影していた。特殊なアダプターを使用しているため、ある程度被写体が遠くても綺麗に取れる。
あとでパソコンに取り込んでクリーニングすれば、かなり細かい部分まで観察できるはずだ。今後なにかの役にたつかもしれない。
パシャリパシャリと3度ほどシャッターをきって、瑠美が眉を顰める。
「これ、3年の不良トリオの仕事じゃねぇですかぁ?」
リアトリスも携帯の電波を確認しつつ、口を尖らせる。日本との連絡は相変わらずとれなかった。
「こんなイベントだれも望んでないですぅ」
この後彼らは、フィレンツェ貴族の末裔の陰謀や裏の歴史に関わる殺人事件に巻き込まれることになるのだが――それはまた、今回とは別の話である。