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HighSchoolNeverEnds!!◇PRIDE BET GAME  作者: 都神
Main route
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◇真打ちの出番のようですね

 花神楽高校3年生のテオ・マクニールは、1年後輩の白井祐未と下校道を歩いている最中、凄まじい速さで走っていくツァオ・ツァオウーを見かけて首を傾げた。

 

「……なんの騒ぎだ?」


 ちょうど裏門のすぐ横に、本が3冊転がっている。ツァオはコレを見て走っていたらしい。祐未はその本をせっせと拾っている。

 

「とりあえずうちの学校のやつっぽいから、届けようぜ」


「そうだな」


 頷いて、彼はそのまま下校道を歩いて行く。しばらくすると、電話をかけている奈月が目に入る。ツァオ同様ひどく不機嫌そうで、横にはリックスが立っていた。

 

「どうかしたのか?」


 尋ねると、奈月が鋭い目つきでテオを睨んできた。そうされても仕方のないことは自覚しているので、テオは肩を竦めるだけに止める。横に立つ祐未は頗る不機嫌そうに顔をしかめた。

 横に立っているリックスが困った様に眉尻を下げる。

 

「ユトナちゃんと連絡がつかないらしいの。さっきツァオくんもヴァレンタインくんを探しにいったわ」


「そうなのか。ありがとう」


 テオは説明してくれたリックスに礼を言って、ポケットから携帯電話を取りだした。

 

「一応確認しておくか」


 小さく呟き、電話帳から目当ての電話番号を捜し出す。耳に押し当てた電話からしばらくして声が聞こえてくる。

 

『キヒヒ、なにか御用かしらぁ?』


 3年の図書委員、ライラ・タイタニアだ。

 

「ライターか。今日ヴァレンタインが本を借りていったか?」


『ええ。放課後に。それがどうかいたしましてぇ?』


「その借りた本のタイトルを確認したい」


『あら、それは図書館利用者のプライベートでしてよぉ? 教えられませんわねぇ』


 キヒヒヒ、と電話口の女が楽しそうに笑う。テオは一瞬考え込み、口を開く。

 

「……隆弘が、明日校長を映画に誘うつもりらしい」


『あらぁ、そうですのぉ?』


「映画のタイトルは『どうしても触れたくない』だ。好きなけひっかきまわしていいぞ」


『ボーイズラブコミック原作作品を選ぶあたりに涙ぐましい努力を感じますわねぇ。いいですわ。交渉成立です』


 祐未が横で信じられないものを見るような視線を向けてきた。小さく口が「鬼かテメェ」と呟いている。事は急を要するので友人の恋路など大事の前の小事という奴だ。

 

『ヴァレンタインが借りた本はRobbins Basic PathologyとHistology for Pathologists、黒い家ですわね』


「うちの図書館は相変わらず品揃えがナナメ上だな。ジャンルの違う専門書とホラー小説を借りるヴァレンタインもヴァレンタインだが」


 ありがとう、ライター。と言ってテオが通話を終了させる。彼はひとつため息をついた後、奈月を見た。

 

「……奈月、調理室へ来い」


 すると奈月が今にも射殺さんばかりの目つきでテオを睨む。

 

「気安く名前呼ばないでよ。なんで僕がそんなところにいかなきゃいけないのさ」


 テオが口の片端を歪めて笑う。あきらかな嘲笑だ。


「やみくもに探し回っていてユトナが見つかると思うのか? ヴァレンタインが今日借りたはずの本が裏門に落ちていた。あいつは十中八九トラブルに巻き込まれているだろうな」


「ユトナは関係ないじゃないか!」


「同じタイミングで姿が見えないのにか? 楽観がすぎやしないか。探すのを手伝ってやると言っているんだ。大人しくついてこい」


 今まで黙って聞いていた祐未が眉を顰めて声を荒げた。

 

「おいテオ! なんで自分からケンカ売るようなこと言うんだよ!」


 少女の声に、テオが肩を竦めた。

 

「生憎、こういうしゃべり方しかできないんだ」


 奈月は鋭い目つきでテオを睨みつけていたが、しばらくして呻る様に

 

「時間の無駄だったら、殺してやる」


 と、物騒な了承の言葉を吐き出した。テオは眉一つ動かさず

 

「好きにしろ」


 と答える。ポケットから再び携帯電話を取りだし、祐未のほうに向き直った。

 

「祐未、お前はツァオを捕まえて調理室へ連れてこい。『闇雲に探し回っていてヴァレンタインが見つかると思うならそうすればいい』と俺が言っていたと伝えろ」


「だから何で自分からケンカ売るんだよ!」


「挑発したほうが人は動きやすい」


「早死にするぞテメェ」


 祐未が口をへの字に曲げたが、テオは意に介さない。祐未が諦めたようにため息をついた。

 

「じゃあ、引っ張ってくるよ」


 と言って、元来た道を走っていた。

 テオは履歴から友人の名前を捜し出し電話をかける。電話が繋がる前に、リックスに視線を向けた。

 

「すまないが、リックスも念のため一緒にきてくれないか。時間があればの話だが、このあと仕事は?」


「今日はないわ。大丈夫よ」


「そうか。なら、調理室でお前の知っていることを聞かせてくれ。奈月とツァオから聞き出すのは骨が折れるからな」


 彼の浮かべた嘲笑が、リックスには自嘲に見えた。なにか言おうと言葉をさがすも、その前にテオが電話と会話を始めてしまう。

 

「隆弘か? ノハを連れて調理室に来てくれ。あと、明日お前が花ちゃんをデートに誘う情報ライターに流したから気合いいれて誘えよ」


 電話口からなにか怒鳴り声が聞こえてくる。まあ当り前だなとリックスは思った。ライターと言えば学校内で『事態をひっかきまわすことに関して右に出るものはいない』と言われるほどのトラブルメイカーだ。ただし、ひっかきまわした事態が必ずハッピーエンドになることから、『ミス・ハッピーエンド』とも言われている。

 テオは電話口から響く怒鳴り声にゆるく笑った。先程までの、嘲笑でも自嘲でもない、リラックスした笑顔だ。

 

「ああ、ちょっと――面倒なことが、起ったようだ」

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