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HighSchoolNeverEnds!!◇PRIDE BET GAME  作者: 都神
Main route
16/18

◇プライド・ベット・ゲーム

「祐未の姐さんとノハさんは救急車で運ばれました。葛城くずはも同様です。例の『ジュリアン・マクニール事件』の後、最悪の状態になったテオ・マクニールとツァオ・ツァオウー、奈月の人間関係は、ある程度修復された模様です。といっても、事件前の状態に戻ったといった感じでしょうか。お互い積極的に話かけにはいきませんが、目の仇にするほどのことではないという雰囲気ですね」


 放課後の調理室。神前がリアトリス、直樹、瑠美の3人に通称『葛城くずは事件』の概要を説明していた。3人の手元には温かい紅茶のカップとエクレアの乗った皿がある。

 直樹が紅茶を一口飲んで、口をへの字に曲げた。

 

「テオは『放課後倶楽部』やらで積極的に話にいってたから、正確に言うと『改善されはしたけど総合的に見てマイナス』じゃないか」


「そうともいいます。テオさんは少し嬉しそうでしたよ」


 直樹がフン、と鼻を鳴らした。


「なに喜んでんだか。テオもそんなの気にしなきゃいいのに。行動できなかった人間が、行動した人間をバッシングするなんてナンセンスもいいところなのに、アイツが愚昧どものアフターケアまでする意味が理解できないね」


「あいかわらずブラコンですね。その視野の狭さに敬意を表します」


「ケンカ売ってるの神前」


「とんでもありません。俺の命は直樹に使っていただくためにあります」


「キモい」


「ありがとうございます」


 直樹がますます不機嫌そうに眉を顰めた。神前は静かに彼の前へICレコーダーを差し出した。

 

「そして、これが先だってご連絡差し上げた音声です」


「ありがとう」


 直樹が短く礼を言って、ICレコーダーにイヤホンを差し込み起動スイッチを押した。電子音混じりの声が彼の耳に直接響く。

 

『貴様、俺を誰だと思っている? 俺は、お前が従う白井直樹の兄だ! いいからお前は、俺の言った通りに手を動かせ!』


 テオ・マクニールの声だ。彼の言い放った言葉を自分の耳で確認した直樹は、途端不機嫌そうな顔を笑顔に変え、機嫌良くエクレアを食べ始めた。

 

「まあ、あいつがそれで良いってんなら、僕はなにも言わないけどね」


 一部始終を観察していた瑠美とリアトリスが顔を見合わせる。

 

「あれ、テオに『白井直樹の兄』って宣言されて嬉しかったクチじゃねぇですか」


「目に見えて機嫌がよくなったですよ」


「とんだブラコン野郎ですぅ☆」


 ICレコーダーの音声を繰り返し聞いている直樹が、2人を睨んだ。

 

「なんた言った?」


 女子高生2人が、少年の視線を受けて同時に肩をすくませる。

 

「「なんでもないですよぅー」」


 ◇

 

 ツァオに殴られて病院に運ばれたくずはは、その後親の意向により花神楽高校に転入することになった。

 なぜそうなったのかくずははわからなかったが、弟のくると学校の近くにあるアパートで暮らしながら、新しい学舎に通えと言われ、抵抗する理由もなかったので頷いた。

 そのくずはが今日呼び出されたのは、花神楽高校の校長室。

 

 名前は忘れたが、正当防衛だかなんだかで、自分の姉を撃ち殺した女が校長だったはずだ。どうして教育者をやれているのか理解に苦しむが、興味がなかったのでくずはは考えるのをやめていた。

 

「はじめまして、葛城くずはくん」


 彼に声をかけてきたのは、金髪の女だった。机の上で両手を組み、口元が隠れている。背後にある窓から光が差し込み、女を照らしていた。そのせいでまるで本物の貴金属のように、金髪がキラキラと輝いている。白い肌にはところどころ赤みがさし、大粒のエメラルドが2つ、くずはの姿を見据えていた。

 人の情欲をぶつけるための人形――精巧なダッチワイフのような女だと、くずはは思う。

 作り物めいていて気持ち悪い。

 くずははニコリと微笑んで、首を傾げた。

 

「はじめまして。貴方が校長先生ですか?」


 女はくずはの問いに、無表情のまま答える。


「ええ。私はリリアン・マクニール。花神楽高校の学校長を務めています」


「今日からお世話になります」


 ペコリと頭を下げると、ダッチワイフがひとつため息を吐き、椅子から立ち上がる。それから彼女は少し歩いて、窓のサッシに手をかけた。女の視線がくずはから外され、窓の外に移される。表情がわからなくなった。

 

「――ご両親には、許可を頂いています。これから君が20歳までに、その性質を矯正できない場合、私が責任を持って、これ以上被害を拡大させないよう『適切な処置』を取ります」


 くずはは笑顔のまま不思議そうな声をだす。

 

「はあ。意味がよくわかりません。普通に生活するだけでは、いけないんですか?」


 女は窓の外を見たまま動かない。

 

「……君みたいな人を、私は1人知ってる。君が本当に彼女と同じ人種(・・・・・・・)だった場合、殺してでも止めなきゃいけないと思ってる」


 校長室のドアが音もなく開き、男女の教師が入ってきた。どちらも金髪で、身のこなしに隙がない。彼らはくずはの一歩後ろでピタリと歩みを止めると、まるで軍人のように腕を後ろで組み、胸を張って待機していた。

 リリアン・マクニールが言葉を続ける。

 

「もう2度と野放しにしたりしない。これは私の、教育者としてのプライドを賭けたゲームだ。君のドロップは許可しない。今までみたいにごまかせると思ったら大間違いだ」


 金色の髪がふわりと空気を孕み、キラキラと光りをまき散らしてゆるやかに広がった。エメラルドが再びくずはを捉え、睨みつける。

 

「――大人ナメんな。クソガキ」


 女の険しい視線を受けて、くずはの片眉が跳ね上がる。ここ最近似たような目の人間がどいつもこいつもくずはのジャマをしてきた。

 この女と同様、プライドなどと言ってくずはの計画を踏みにじってきた。

 

 その、プライドってのは、なんなんだ。

 

 くずはが不快を露わに女を睨みつけると、いままで険しい顔つきをしていた女がふっと笑みを浮かべる。

 突然の表情の変化に、くずははますます眉を顰めた。

 

「――まあ、そんな顔ができるんなら、心配いらないかな」


 白く細い手が、くずはに向って差し出される。握手を求められているのだと、一拍遅れて気がついた。

 

「ようこそ。花神楽高校へ。私達は、貴方を歓迎します――葛城くずは」


 ◇

 

「葛城くずはです」


 左目が黒、右目がグレーの男が笑顔で宣い、小首を傾げる。

 

「宮下灰花ッス! 宜しくお願いしますっ!」


 手を背中で組んで肩幅くらいに足を開き、灰色ががっかった銀髪の男が大きな声を張り上げた。横に立っていた体育教師――アレックス・ラドフォードが、笑顔で宮下灰花と名乗った男の肩を叩く。

 

「元気があって非常によろしいっ! みんな、今日からこのクラスの仲間になる、宮下灰花くんと、葛城くずはくんだ。仲良くするようにっ!」


 事情を知る人間は口元をひきつらせ、事情を知らない人間は、突然1つのクラスに、しかも高校3年生という時期に、編入生がやってきたことに対して不思議そうな顔をする。

 

 事情を知っている人間――テオ・マクニールと西野隆弘は、年末の大掃除を終えたあたりで、ゴミを出し忘れていたことに気づいたような――そんな疲れ切った顔で、顔を見合わせていた。

 テオが消え入りそうな声で呟く。

 

「……隆弘、この学校、どうなってるでござるか……」


 隆弘は、重いため息をついた。

 

「――俺の、知ったことか」


 彼らの疲労の原因である葛城くずはは、好奇や恐怖や敵意の目線をまったく気にした様子もなく、教室をぐるりと見渡して能面のような笑みを浮かべた。

 

 感情の伴わない笑顔で小首を傾げ、宣う。

 

「宜しくお願いします」


 テオと隆弘は確信した。確信してため息をついた。


――嵐が、やってくる。

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