◇葛城くずはの独白
私になにか御用ですか?
話を聞きたい? なんの?
……ああ、中学で起った、暴行事件のことですか。怖いですよね。早く犯人が見つかって欲しいと思います。
襲われた生徒のことですか?
もちろん、知ってますよ。頭が良くて、礼儀正しくて、良い子ですよね。黒髪の……
え? 茶髪?
そうでしたっけ。すいません、覚えているつもりだったんですが、後輩だと何人か混ざって覚えてしまっているようですね。弟と同級生だからてっきり覚えているつもりになっていました。
ええ、弟も同じ中学なんです。彼、いつもその、あー……被害者の子が、テストで100点とったとか、先生に褒められてたとか、そんな話を私に聞かせてくれるんですよ。
ところで、すいません。被害者の子の名前ってなんでしたっけ?
あ、そうそう。ヴァレンタイン。ヴァレンタインですよね。
彼も可愛そうに、不運でしたね。今入院してるらしいじゃないですか。早く退院できるといいですねぇ。
……目の怪我ですか?
先日、家の階段から落ちてしまって。お恥ずかしい。
ああ、視力はすこし落ちるかもしれないんです。目の色も少し変わるかも知れないとお医者さんがおっしゃってました。
ありがとうございます。
……私とヴァレンタインくんの関係ですか?
先輩と後輩、くらいしか言い表す言葉がみつかりませんね。なにぶん、ほら、ちゃんと覚えてられないくらいですから。その程度の面識しかありませんよ。
私は弟からあの子の話を聞いていましたが、ヴァレンタインくんは私の名前すら知らないんじゃないでしょうか。
ところで、どうしてさっきから、私にそんなことを聞くんですか? 警察の人でもないのに。
調べている? 探偵さんか、マスコミさんですか? そうじゃない? そうですか。
あ、すいません。電話にでてもかまいませんか。友人からみたいです。
おや、もう帰るんですか? お気を付けて。
◇
はい。もしもし。ああ、どうも。喜んで頂けて私も嬉しいですよ。
そんなに具合が良かったですか? あの金髪の子――え、茶髪?
ああ、茶髪。茶髪でしたね。そうでした。
ええ。まだ入院中らしいですよ。気の毒にね。
またやりたい? 今は騒ぎになってますから無理ですよ。でもそうですね……もうしばらくたって、まだ貴方達があの子と遊びたいというなら、考えないでもないですよ。
そんなに良かったんですか。私も試せばよかったかな。
ふふ、そうですね。機会があれば。
ああ、ところで――ひとつ、いいですかね。
その、赤髪の子――あ、茶髪でしたっけ。
名前、なんていうんでしたっけ?