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第1話 兄と妹 (その9)

夫婦茶碗があるってことは・・・・。と美佐子は考える。


507号室の向井忠明には、そうした女性がいる、ということに他ならない。

では、その女性とは?と考えても、行き当たらない。


向井忠明は、5年前、このマンションが出来たときからの入居者である。提携している不動産屋の紹介だったが、社名を言うと誰もが知っている一流の会社に勤めていると言う。名刺も貰ったが、嘘はないだろうと思っている。肩書きは「企画部 調整担当部長」となっていた。

入居者カードによると、年齢は現在58歳。同居者はいない。緊急の連絡先として、仙台にある実家の電話番号が記載されていて、相手は「妻、良子」と記されている。

つまり、れっきとした妻帯者なのである。


「大阪本社に転勤となったものですから・・・」と入居時に語っていたことを思い出す。いずれは、何年か経てば仙台の実家に戻るのであろうと勝手に想像していた。

でも、よく考えてみると5年も経っているのだ。まだ、戻して貰えないのか、それともやはり本社のほうが居心地が良くて本人の希望なのかは分からないが、少し長いような気もする。



「他に、尋ねてくるような女性はいたかい?」とお竹さんは言う。

「う〜ん。確かに、女性と言えば、あの妹さんぐらいだけれど・・・・・。」と美佐子は承服できない。


平日、向井は、毎朝、ほぼ同じ時刻に出かけて、ほぼ同じ時刻に帰ってくる。

そして、夕刻に出会うと、必ずと言っていいほど、近くのスーパーのレジ袋を下げている。

「お帰りなさい」と言うと、にっこり笑って「ただいま帰りました」ときちんと挨拶をくれる。

いつも地味目のスーツを着ていて、黒ぶちの眼鏡を掛けている。

家賃も銀行口座からの自動引き落としにしてくれている。

流石に一流企業の部長さんだ、という印象があるのだ。


こうした賃貸マンションにはいろいろな人物が入居してくる。殆どが提携の不動産屋からの紹介で入居するのだが、こちらも商売なので、お金さえきちんと払ってくれそうであれば、その他の条件、年齢や性別、勤務先などを基準にして、入居者を選別することは出来ないのが実情なのだ。

でも、結果として、向井のような紳士風の入居者がいることは、所有者としても好ましいことだと思っている。



「向井さんは、きっと、いい人なんだろうね。」とお竹さんは意味ありげに微笑む。



(つづく)




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