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第1話 兄と妹 (その52)

女を見送った後、美佐子はそのまま管理人室に戻る気はさらさらなかった。

嫌な奴がいるのだ。しかも、3人もである。

こうした交渉事は、任せておくに限る。日頃はどことなく頼りない男だが、さすがは元総務部次長をやっただけのことはあって、こうした交渉はびっくりするほど旨くまとめてくる。

源次郎の顔が浮かんでは消える。


そんなことをぼんやり考えていると、その傍をスーツ姿の男が3人出て来た。

多少、殺気立っている感じがする。

どうやら、前の通りの反対側に車を停めているようで、そこに向かうのに、続いて流れてくる車の列が途切れるのを待っている。

「あの頑固親父にも参ったなあ。部長になんて報告するんだよ。」などと愚痴を言っているのが聞こえる。

美佐子があのとき入ってきた人間だとは誰も気付いていないようだ。

それを幸いに、美佐子は彼らの動きを注意して見ている。


と、そのうちの1人が携帯電話を掛ける。

「申し訳ありません。開けてもらえないんですよ。どうしても、ご家族でなければ・・・と頑として・・・」

どうも、その電話の相手は叱っているようである。掛けた男は、まさに目の前に居る人間にするように、ひたすら頭を下げている。

美佐子には、それが滑稽でたまらない。

その後、掛けた男は、何度となく「はい」を繰り返す。指示を受けているようである。

そして、車の流れが止まったときを見計らって、向い側に停めた車に向かっていく。

乗ってから、1分もしないうちに、その車が走り去った。



それを見届けてから、美佐子は源次郎が待つであろう管理人室に戻った。


「ただいま。・・・・あんた、ほんま、ごくろうさんやったなぁ。」と美佐子が声を掛ける。

源次郎は、椅子に座ったまま、向こうを向いていたが、美佐子の声に振りかえって、

「今の連中、彼女とはぶつかってないよな?」と訊く。

「ああ、ちょっとの差。ニアミスもせんと、ちゃんと、帰したよ。」

「そうか、そら良かった。ところで、部屋のほうはちゃんと片付いたんか?」

「うん。女っ気のおの字もない。完璧やで。これで、いつ来て貰ろてもOKや。」

「よっしゃ。これで後は夜やな。」

2人はそれぞれの思いで話しているが、肝心なところはちゃんと通じている。


「あっ!そうや、これなんやけど。」と美佐子が女から預かった携帯電話を見せる。

「ああ・・・・、これ、向井さんのやろ?・・・彼女、どないするんかな?とは思とったんやけど。そうか、返して来たんか。」

「あんた、預かってぇな。うち、こんなん持ってるの嫌やし。」と美佐子は甘えた言い方をする。

「よっしゃ、預かったる。」と源次郎が手を出す。


源次郎がその携帯電話に表示されている時間を見て、ポツリと言う。

「トラブルさえなけりゃあ、飛行機が仙台を離れた時刻やなあ。」



(つづく)


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