表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/54

第1話 兄と妹 (その39)

女は、そこまでで、また涙を流し始める。


源次郎は「うん、そうなのかも知れん」とも思っている。

この小暮という女と向井忠明。確かに、普通の知り合いではない、という感覚はある。

夏祭りの夜もそうであったし、今朝の、あの顔色で飛び込んできたのもそうである。

単なる知人のレベルは超えている筈だ。

だが、それでも、「男と女」であるかと問われれば、源次郎は「?」をつけるのだ。


そのようなことを考えながら、それでも源次郎は、庭においた視線を戻さない。

それを、源次郎の「そこから先を・・・・」という言葉だと捉えて、女がまた話し始める。



それから以後のことは、本当に私の我侭から出たことなんです。


「就職先をお世話頂いたお礼の意味で・・・」とお食事に誘いました。

安物の居酒屋でしたが、向井さんは喜んでお付合いくださいました。

楽しかったです。元気付けられました。勇気をいただきました。

それで、「これからも、こうしたお時間をくださいませんか?」とお願いしました。

そしたら、「こんな詰まらない僕でよければ、いつでも・・・」とおっしゃって。

こんなに優しくて、それでいて切なくなる接し方をされた人は初めてでした。


ある冬の日、寒い日でしたが、私の初めてのボーナスが出たので、向井さんをお食事に誘ったんです。この日も、気軽に「いいよ!」っておっしゃって。

そして、少しアルコールが入った頃、向井さんの顔色が急に悪くなったんです。

私も看護師の端くれでしたし、向井さんの持病も分かっていましたから、直ぐにここまでお送りしてきたのです。


ここのお部屋にお邪魔したのは、そのときが初めてです。

そのまま、お休みになれるようにと、着替えなどをお手伝いして、常備されていたお薬もちゃんと飲んでいただいてから、私は帰るつもりでした。

「ゆっくりお休みくださいね。こんな日にお誘いして、済みませんでした。」と言いました。

そして、帰ろうと、出口のところまで行った時に気が付いたんです。

部屋の鍵を掛けて出ようにも、私はその鍵を持っていません。

お部屋に戻って、向井さんに鍵のことを確認しようとしたのですが、もう既にうつらうつら眠られているようでした。


起こして聞こうか、それとも勝手に鍵を探して、外から掛けておいて郵便受けから中へ投げ込むようにしようか、いろいろと迷いました。

でも、時折苦しそうな顔をされる向井さんを見ていると、とてもそのままおいて帰ることが出来なかったんです。


結局、私は、向井さんの傍で、朝までじっとしていたんです。



(つづく)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ