第1話 兄と妹 (その38)
電話を掛けると、向井さんは気軽に会おうよとおっしゃって。今日でもいいよって。
それで、私は、飛んで行きました。
軽くお食事をして、おしゃれなバーに連れて行ってもらいました。
そうしている間に、私は悩んでいることをすべて話していたように思います。
甘えていたんだと思います。甘えたかったんだと思います。
看護師の資格を取ったとき、これでひとりでも生きていけると意気込んだことも忘れてしまって。愚かなものだと思います、自分でも。でも、そのときは、そうする他に、道がないような気がしていました。情けないです。
それで、向井さんが
「よく話したね。その相手に選ばれたことを誇りに思うよ」って言ってくださって。
嬉しかったです。本当に。
「でもね、その答えは自分で出すべきものだよ。僕がどうこう言うべきことじゃない。でも、こうして、話しているうちに、自分の中で考えが整理できた筈だよ。結論は、悩んでもいいから君自身で出すんだ。僕が力になって上げられるのは、どうするかを君が決めてからだ。」とおっしゃって。
さらに、「どちらの結論を選択したとしても、僕は君の決定を応援する。」とまで言われて。
本当に嬉しかったんです。親にも相談できない状況でしたから。
それで、言われたとおり、自分で一生懸命に考えて、結論を出しました。
それを連絡したら、「そうか。決めたか。その結論を大切にするんだよ。」って。
それから、私は遠くの婦人科病院に行きました。
そして、向井さんの紹介で、今の病院へ勤めることになったんです。
以前にいた大学付属よりは規模は小さいですけれど、院長先生はじめ、皆さんよくしてくださって。
ありがたいと思っています。
もし、あの時、向井さんと出会っていなかったら、今の私は、ここにいなかったかもしれません。
こうして、ちゃんと生きてこられたのも、向井さんのお陰だと思っているんです。
管理人さんは、お疑いかもしれません。向井さんと私のこと。
でも、これだけなんです。本当なんです。信じてください。決して、男と女の関係ではありません。
向井さんの名誉のためにも、これだけは私がはっきりとお伝えしておかなければ・・・と思っていました。
(つづく)