表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/54

第1話 兄と妹 (その23)

「ジョージさんと、さっきの若い子が言ってましたが・・・・。」と源次郎が確認する。

「ああ、ジョージというのは私の名前。シルバー・フォックスではそう呼ばれています。」

「そのシルバー・・何とかというのは?」

「バンドの名前です。私が参加しているジャズバンドの。シルバー・フォックスと言います。少しだけカッコいいでしょう?」


源次郎は、頭がくらくらしてくる。

「と、言うことは、向井さん、ジャズをおやりになってるってこと?」

「はい。でも、あくまでも遊びですよ。仕事ばかりじゃ、人間、息詰まりますからね。」

「いつから?」

「それは、ジャズドラムを始めたことですか、それとも、この店でのこと?」

「いゃあ、両方とも。・・・・・想像もしてなかったものなぁ。」


向井は、笑顔で話している。マンションで顔を合わせることも幾度となくあったが、今のような、少しやんちゃ坊主のような、心底から楽しんでいる風な笑顔は初めて見る。

源次郎は、改めて「人は見かけによらない」ことを実感する。


「じゃあ、その話は後ほど詳しく。管理人さん、まぁ、ゆっくり飲んでてください。どうやらメンバーが揃ったようなので、ちょっとばかり、遊んできますから。」と向井が立ち上がる。

「その、管理人さん、というのはやめて貰えません?どうも、このようなお店では格好が付きにくいですよ。」

「あっ!そうですね。これは失礼をいたしました。では、吉岡さん、でよろしいでしょうか?」

あくまでも、向井は楽しそうである。



向井が黒いカーテンの向こうに姿を消してまもなく、店全体の照明が落とされたような気がした。

と、いきなりスポットライトが灯されて、その眩さの中に、ジャズバンドが出現する。


後ろのボックス席から大きな拍手が起きる。

源次郎も慌てて、拍手を送る。


中央に立った男が、マイクを握る。

「ナニワのジャズスポット『ブルータス』へようこそ。今宵は、我がシルバー・フォックスがお相手いたしますので、最後まで存分に酔いしれていただきたいと思います。」

ひとり、ふたり・・・・・全部で5人のバンドらしい。中央の奥に、向井さん、いやジョージさんのドラムがでんと座っている。

そのジョージさんが、ドラムスティックを合わせて、「カン・カン・カン」とリズムをとる。

そして、演奏が始まりだす。



申し訳ないが、源次郎はジャズは全くの門外漢である。

今、演奏されている曲も、どこかで聴いたことがあるような気はするのだが、曲名などは一切分からない。

ただ、リズムだけは何となく身体に心地よく響いてくる。

とりわけ、向井さん、いやジョージさんが叩いているドラムの音は、床を這うように伝わってくる。


旨い水割りをちびりちびりやりながら、そのジャズの世界なるものに浸り始めている。

目は、ドラマーだけを見つめている。何とも心地よいものだ。今まで、ジャズを改めて聞くようなことはなかったが、これはこれで、素敵な世界なのだ、と思えるようになっている。


1曲目が終わったようである。後ろのボックス席やカウンター席からも拍手が起こった。

源次郎も、慌てて拍手を送る。

気がついたら、すぐ後ろのボックス席にも4人の客が座っているし、カウンター席もほぼ満席の状況である。そうした中で、たった一人で、ボックス席を占領しているのが何となく心苦しくなってきた。


そして、次の曲がはじまったようである。 また、大きな拍手が巻き起こる。



(つづく)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ