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第1話 兄と妹 (その22)

入ると、真っ暗なのである。

よく見ると、分厚い黒のカーテンがかかっているように見える。

棒のように突っ立っていると、その真ん中から、急に鋭い明かりが飛び出してくる。


そして、その光の中からいきなり、タキシードを着た男が出迎えに来る。

それを見て、源次郎はさらに引き下がる。


「向井さん、ここは・・・・?」と後は声にならない。何か,とんでもないところに来たような気がするのだ。


それを見ていた向井が、にこやかに笑いながら源次郎の背中を押す。

その真っ黒なカーテンのようなものを割って入ると、そこはシックなバーのような雰囲気である。

源次郎は、自分の浴衣姿とのアンバランスを痛感する。


「まあまあ、管理人さん、取り敢えずはお座りくださいな。」と向井はボックス席に案内する。

言われるままに座ると、その席も非常に高級感のあるソファの感触である。

天井には、ミラーボールというのだろうか、あの独特の光を反射させて輝くものがある。

高そうだな、と源次郎は思う。


いつの間にか、傍にいる筈の向井の姿がなくなっている。

ブランデーかウイスキーなのかはよく分からないが、ボトルを載せたセットが運ばれてくる。

運んできた黒服の男に、源次郎が小声で尋ねる。

「いま一緒に来た人は?」

黒服の男は、笑いながら、「ジョージさんなら、今、衣装に着替えていますので・・」と言う。

「はぁ?ジョージ?衣装?・・・・何のこっちゃ!」と源次郎には訳が分からない。


「お水割りでよろしいでしょうか?、それともロックになさいますか?」と黒服の男が訊ねてくる。

「ああ、水割りで・・・」と源次郎は適当に答える。

それよりも、ここがどのようなところなのかが気になって仕方がないのだ。


黒服の男が去った後は、暫くは誰も近くに来ない。

暗さに目が慣れてくると、辺りが多少は見えてくるようになった。

どうやら、本当に小さな店ではあるようだ。今、源次郎が座っているボックス席と、奥にあと2つのボックス席が見える。一番奥の席には男女が座っている。カップルなのか、女がこの店の子なのかは分からない。

源次郎の正面にはカウンターが見えて、そこにはバーテンダーらしき男がひとりいて、何やら動き回っている。

右手にはどうやらドラムセットが置いてあるようだ。その辺りだけが、少し高くなっている感じがする。


仕方がないので、作ってもらった水割りを口にする。

「旨い!」と思う。あまり飲める方ではないが、サラリーマン時代に多少はこうした高級な酒を口にした記憶がある。口当たりがまろやかなのだ。


「どうですか、お口に合いましたか?」

振り返ると、そこには向井が立っていた。

上は、フリルのついた銀色のシャツ、そして、下は細い黒のズボンである。

ぽかんと口を開けた状態で、目だけで向井の姿を上から下へと往復する。


「申し訳なかったですね。驚かせるつもりはなくて、ここへ来るまでに何度となくここの話をしようかと思ったんですが・・・。つい、言いそびれたままで。」

「向井さん、ここはどういったお店なんですか?」と源次郎は訊きたくてしょうがなかったことを訊く。


「あははは・・・。実はね、私、ここで遊んでいるんですよ。いわば、私の遊び場なんです。」

「・・・・・・・・・・」

そう、言われても、何のことだかまだ分からない。

向井が横に座ってくる。

「ここはね、ジャズバーのようなところです。あそこにドラムセットが置いてあるでしょう。あれが私の遊び道具なんです。」とテーブルの上で、ドラムを叩くマネをしてみせる。



(つづく)




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