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第1話 兄と妹 (その21)

「向井さんは、ご実家が仙台でしたかね?」

「はい。妻と娘が2人います。ひとりは、今は東京の大学ですが。」

「お仕事とは言え、単身赴任はしんどいでしょう?」

「いゃあ、最初は慣れずに苦労しましたが、慣れてくるとそれはそれで何とかやれるものですね。」

「でも、寂しいって感じません?」

「う〜ん、それは確かに・・・・。」

2人の会話は互いの本質を外さないで進んでいく。


男2人、夜のバス通りを並んで歩くのは、何となく滑稽なものだと源次郎は思う。

自分は浴衣だが、向井はゴルフに行くような格好である。良くは分からないが、恐らくはブランド物なのであろう。見ていても,ピシッと決まっているような感じがする。

まるで異質な世界から来たような格好をした2人の男が夜道をぶらぶら散歩しているのだ。

これで、前から警邏中の警官でもくれば、明らかに「職質」を受けそうな気配である。


私鉄の駅前にある最後の大通りで、信号に引っかかった。

青信号が点滅し始めたとき、一気に駆け出せば渡れたと思うが、今夜は浴衣に下駄履きである。

無理して、途中でコケても格好が悪いだけだと思い直した。


「この信号を渡って左の奥にあるビルに、チョット知っている店があるので、そこでもよろしいですか?」

横断歩道のところで、向井が指をさして訊く。

「どこでも構いませんよ。でも、向井さんがこの辺りの店をご存知とは、驚きましたよ。」

源次郎は、正直、そのように思った。


向井はほぼ毎日、計ったように定刻に帰ってくる、と美佐子から聞いていた。

だったら、向井は酒や女などの遊びもしない男なのだと、源次郎は勝手に思い込んでいた。

大企業の部長クラスというのは、もっと派手に遊ぶものだと考えていたから、一風変わった男なのだろうと思っていたのだ。


でも、こうして、毎日通勤する経路に非常に近いところに飲む店を知っているというのだから、これは驚きに該当する。いつの間に、そのようなところを開拓しているのだろうと考える。


信号が変わって、横断歩道を渡る。

それから左へ折れて、今度は細い路地を右へ入る。

その一番奥に、4階建ての小さなビルがあって、そこへ向井は源次郎を案内した。


小さな、5人も乗れば一杯になるだろうと思われるエレベーターに乗る。

3Fのボタンを向井が押す。

ガタンと大きな音がして、ドアが閉まる。ウィーンという音を立てて、3階に着く。


そのフロアーには、小さな店ばかりが4軒入っているようだった。

そのもっとも手前のドアを向井が開ける。

「管理人さんからどうぞ。」と言われて、源次郎が店へ入る。

入ったとたんに、「えっ!」と叫んで、足が止まった。



(つづく)




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