人が好きな天使
むかしむかしのおはなしです。
人と共にありたいと、神様の目を盗んで地上に降りた天使がおりました。
純粋で人が好きな優しい天使でした。
地上の人々は、天から舞い降りた天使を歓迎しました。
すぐに天使のまわりには、たくさんの食べ物やきれいなものがあふれて山のようになりました。
人は天使にたくさんの穀物を果物を捧げては、小さな幸福を祈ります。
食事もせず着飾ることをしらない天使でしたが、それらの物を人間が大事にしていることは知っていましたから、その好意をただ嬉しく思いました。
やがて、人々の純粋な願いを、天使は叶えてあげるようになりました。
もっとたくさんの人が天使に願うためにやってくるようになりました。
「天使様、どうか私の願いを叶えてください」
「お母さんの病気を治してちょうだい」
「元気な子供が生まれるように祝福をください」
「戦へ行く夫が無事に帰ってくるようお守りください」
「金持ちの全財産を俺によこせ」
「王太子殿下に見初められますように」
「領主の妻、国一番の美女を俺の嫁にしろ」
しかし、他の誰かを不幸にするための願には、困った笑顔を返すだけでした。
しばらくすると、叶える願いと叶えない願いがあるのは、不公平だと言う人たちがあらわれました。
「子供が飢えないだけの財産を願ったのに」
「ただ幸せな結婚がしたかっただけなのに」
叶わなかった願いを少しずつ事実と曲げて、不公平だと大騒ぎしました。
それをとりなしたのは王様でした。
「何の見返りもなく我々の願いを叶えてくださる天使様の公平を、どうして疑うのだ」
「願いを叶えるための努力をしていたのか」
「天使様はそういう心を見透かされておいでなのだ」
王様は人々にそう言い聞かせ、騒ぎを収めました。
それから天使は、不満をもつ人たちから守るように、聖堂の小さな部屋に匿われることになりました。
そして天使様に願いをかなえてもらうには、困っている人たちのために寄付をする決まりができました。
天使はそれを知って感心しました。
自分のように、ただ願いを叶えるだけでは人から成長する力を奪ってしまいます。
そして、人がただ願うだけではなく、お互い助け合う道を選んだことを嬉しく思いました。
やがて天使の元へは、たくさんのお金を寄付できる王様や貴族ばかりがやってくるようになりましたが
寄付のお金が、パンや薬になって人々へ行きわたることを知っている天使は、喜んで願いを叶えました。
ある日、平民の青年がやってきました。
「俺は天使様に願うために家を売りました。牛も馬も鶏もすべてです。 もっと貧乏なひとは、願うことすら許されません。
お金がない人の願いも、平等に叶えて欲しいのです。それが私の願いです」
天使は考えました。
そこで小さな部屋の奥に扉をひとつ作り、迷いの森へとつなげました。
そして、そちらの扉から入ってきた人ならば、教会に寄付をしなくても願いをかなえてあげることを約束しました。
対価なしに叶えられる願いは、人を駄目にします。
迷いの森を抜ける労力は、願いを叶える対価に相応しいものに思えたからです。
天使は聖堂の扉から入ってきた人の願いを叶えます
「国を豊かにしてください」
「鉱山から鉄がたくさん出るようにしてください」
「出兵する兵隊に祝福を下さい」
「国を守るための徴兵に、国民たちが素直に従うようになるようにお願いします」
迷いの森の扉から入ってきた人の願いを叶えます
「外国から兵隊が攻めて来ませんように」
「麦は全部持ってかれちまうから、芋が豊作になりますように」
「家が焼かれませんように」
「徴兵された幼い息子たちがどうか無事でいますように」
やがて両方の扉に入ってきた人たちがそれぞれ願いました。
「国に従わない反乱者共を扇動する、迷いの森の悪魔を倒してください」
「圧政に苦しむ民衆を救うため、愚王を守護する聖堂の悪魔を倒してください」
天使は困ったように微笑んでから、姿を消しました。
そして人のいない地下深く、暗く狭い所からそっと人の幸せを願うことにしました。
やがて国は滅びました。
人を惑わせ国を滅ぼした天使は、今は悪魔と呼ばれています。
再投稿。
2/16 ちょっと文章を足してみました。