表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界のひだまりは、僕が守る  作者: 岩瀬華
3 ひだまり集めのメソッドーーできる男の習慣術ーー
9/21

07 ねえさま

タイル張りの台座の上に横たわる女性を初めて見たのは、僕が「今のバージョンの僕」になった次の日のことだった。



初雪よりも昼の新月よりも純白の肌は、血の気がまったくなく、まるで実体がないかのようだ。


透き通るような空よりも、終わりの見えない海よりも、深い深い青に染められた長い髪。

細やかなタイル地の上にゆるい流れを作り、裾野まで広がっている。


そして、閉じられたまぶたの向こう側にある瞳は、髪色を濃縮したような紺碧の色をしているのだろう。


妹のルイの瞳が、髪色と呼応した真紅であるのと同じように。




〈まおうのしろ〉の一室。

元々は両親の寝室だった場所に、その空間はある。




「姉様が生きるためには、ひだまりの力が必要なのです」



部屋に一歩踏み入った瞬間、僕の全身は心地よいぬくもりでいっぱいになる。

よく晴れた春の昼下がりを思い起こさせる、そんな優しいあたたかさ。


天井いっぱいから降り注ぐ光は、部屋全体を明るく照らし出す。一見真っ白なタイルは、光の角度によって、ピンク、紫、エメラルド、と、とりどりに色を変える。



部屋を包むあたたかさ、明るさの正体は、世界から集められたひだまりだった。




「亮さまがこちらの世界にくる前のお話です。

姉様は、〈まおうのしろ〉に乗り込んで来た光の勇者の封印魔法を受けました」


ルイは驚くくらいに淡々と、説明を続ける。


「世界のひだまりを全てここに集めなければ、姉様の封印は解けません。

封印が解けるその日までーー姉様は眠り続けたままです、目を覚ますことはありません」




こんなにもポカポカしたひだまりの中にいるのに、姫様の頬は不思議なくらい真っ白で。

本物の作り物よりも、作り物のようですらあった。


「ということは……ひだまりを集める本当の理由は……世界を闇で埋め尽くすことではなく……」



「はい」



ルイは僕を見据えて、言った。



「姉様の封印を解くためです」



ルイは続けた。



「この魔王制度は近年確立されたもの。

それまで、先代の魔王さまたちは民に害をなすことは殆どありませんでした」


「え、魔王なのにか?」


「はい。力を使うのは、時々、自分は選ばれし者だと勘違いした、正義感溢れる勇者を、圧倒的な力でもって捻り潰すときくらいです」


すごい言いようだな。


「つまり、〈まおうのしろ〉は、モンスターの本拠地、ラスボスの根城……という"権威の象徴"としての意味合いが強かったのです」


「頑張ってダンジョンを攻略して、魔王を倒す……っていうほどの理由がなかったわけか」


「そういうことになります。

なにもせずとも、魔王さまはそこに存在するだけで、人々に権威を示すことができていたのです。

これは、魔王にとっても、人々にとっても、友好な関係であったとわたくしは思います。

魔王が存在していながら、争いがなかったのですから」


「……そんな最中、先代の魔王が死んでしまったんだな」


ルイはゆっくりと頷く。


「詳しいことは表に出ていませんが、不慮の事故だったといいます」


「魔王が死んだっていうのに、詳細はニュースにならないのか?」


「いえ、本来ならばすぐに知らされるべきです。たとえそれが事故であっても。

しかし魔族は、〈まおうのしろ〉の権威を守り、争いのない現状を維持したいと考えたのです」


圧倒的な強さをもち、象徴としてだけで民を統べてきた〈まおうのしろ〉の主が、不慮の事故で死んだ……なんて、権威の失墜に繋がりかねない事態だ。

いつかは公表するにせよ、死亡時期や死因に情報操作が入ってもおかしくないだろう。


「城に近づく者は殆どいませんが、だからといって、城を空にしておくわけにもいきません。

そこで魔族は、次の魔王が決まるまでのあいだ、〈まおうのしろ〉にお目付役を送り込みました」


「そのお目付役が……ルイと、この、姫様なんだな」


姫様の眠る台座に傅き、真っ青な髪を撫でるルイ。


「親も早くに亡くし、二人きりの家族でしたので……都合がよかったのでしょう。

わたくしたちは、次の魔王が城へ来るまで、城から出ることができなくなりました」



そして、「魔王代理」であることを知らない〈光の勇者〉の手で。

ルイの姉である、たった一人の家族である、姫様は封印されてしまったーー。


ルイは僕が来てからも、先代の死を報じてからも、表向きには「魔王の政策」としてひだまりを集めていた。

「魔王代理」の話を公表するわけにはいかないからだ。


「魔王さまである亮さまが来てくださった今、わたくしのやるべきこと一つです。

世界のひだまりを集めて、姉様の封印を解く。


そうして、わたくしは……姉様と共に、この世界から自由になるのです」




ルイはスッと立ち上がり、僕のほうへと歩み寄った。

そして、いつものスマイルに戻って、言った。




「協力してくださいますよね、魔王さま」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ