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世界のひだまりは、僕が守る  作者: 岩瀬華
1 ひだまりが奪われる世界
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02 しばいぬ

『ぴんぽーん♪ 番号札、二十一番でお待ちの勇者さま。三番窓口まで、お越しください!』

『ぴんぽーん♪ 番号札、三十六番でお待ちの勇者さま。闘技場まで、お越しください!』



「ルイさん」

「ルイ、とお呼びください」

「ルイちゃん」

「ルイ、とお呼びください」



「……ルイ」

「はい、なんでしょう亮さま」



「これはいったいなんなのでしょう」

 僕は目の前の人波を指差して聞いた。

 この馬鹿みたいなやりとりの間も、背後では『ぴんぽーん♪』という軽快かつ不快なチャイム音と銀行の呼び出しのような機械音声が鳴り響いていた。



「魔王さまを倒しにやってきている、勇者さまたちでございます」

「それはさっき聞いた」



「世界の約八十三パーセントを保有する時の最高権力者、亮さまを倒し権力を奪回しようと画策する愚民どもに順番に力の差を思い知らせるありがた愉快なイベントを実施しております」



「なんか違わないか」

「違わなくはありません。やってきた勇者と闘う。これこそが魔王さまのお仕事であり、むしろこれ以外の登場シーンはほとんどありませんよ。出しゃばるなら今です」

「いや、勇者来すぎでしょ。さっきから全く途切れる気配ないし。さばいてもさばいても待合室の勇者減らないし。みんなどんだけ魔王を倒したいの。身が持たないよ」

「なにを贅沢なことをおっしゃっているのだか。倒していただけるうちが花だというのに」

「ルイさんは知らないかもしれないけど、あれ結構痛いからね!僕泣いちゃうよ!」

「ルイ、とお呼びください」



 ラスボスである魔王の仕事とは、毎日毎日ひたすらに、勇者たちを迎え撃つことだった。



 魔王と一戦交えるべく、世界中から勇者が集う。

 〈まおうのしろ〉、つまり僕の家だが、は最終ダンジョンとして改装されて勇者たちの体力を消耗させる作りになっている。数多のトラップ、ザコキャラ、中ボスらを倒してきた猛者のみが最上階へと辿りつくことができるのだ。



 そして〈まおうのへや〉、つまり僕の部屋だが、に入る前に必要なのが、〈ばんごうふだ〉であり、持っている番号を呼ばれ手続きを済ませること。これが先ほどから鳴り響いている『ぴんぽーん♪』の正体である。

 人数が多いことによる単なる便宜化なのだが、勇者たちの間ではイベントという扱いをされており、攻略サイトにも載っている。僕が垣間見たところによると、「〈まおうのへや〉手前ではセーブができないよ!」「攻略には時間がかかるよ!」「ひまつぶしの道具を持っていこう!」などというアドバイスが並び、「役立ったアイテム・週刊誌、おやつ」という書き込みも見受けられた。どうやらいかに有意義に時間を潰すかがポイントのようだ。



 しかし、自分の攻略方法を自分で検索して調べることができる世の中とは。

 情報化社会、実に恐ろしい。というか勇者たちよ、もう少し隠せ。弱点変えるぞ。



「冗談でもそういうことをおっしゃるのはやめてください、亮さま。こちらも慈善事業で城を解放しているわけではないのですから」

「もともとは僕の家だけどな」



「勇者のみなさまが一生懸命にアイテムや装備品を買ってくださるからお金が回り、経済が豊かになる。魔王という共通の悪者をたてることによって愚み……市民たちのストレスも発散される。そして最後には、最終ダンジョンである〈まおうのしろ〉でもお金を落とす。魔王さまのおかげで潤いっぱなしでございます」

「君、裏の魔王とか呼ばれてたりしない?大丈夫?」



「そんなことよりも亮さま、勇者の皆さま方を迎え撃つ際の心得はもう身についたのですか?」

「うん、紙に書いておいてよ、見ながら闘うから」

「いけません、そんなことでは!威厳に関わります!」

 ルイはそういきり立って言うと、昨日と同じ説明を淡々と口にし始めた。

 僕は待っていましたとばかりにメモとボールペンを用意する。



「亮さまの所持体力は八三万です。そのうち、戦闘場面において表示されるのは六〇万。六〇万の体力を削られると、勇者方の勝利となるわけです」

「残りの二三万はどうするの」



「戦闘場面において敵キャラをやっつけたとしても、そのあとも画面に居座っていたり、話しかけて来るやつらがいるでしょう。残りの体力はそのためにとっておきます。なにか秀逸なコメントを残してから跡形もなく消えさる、というアクションのために二〇万の体力を使います。そして最終的には、体力三万でこちらに帰ってきて回復していただく、という手筈です。体を動かす原動力である体力値八三万すべてを消費してしまうと、いくら魔王とはいえ本当に死んでしまいますからね」



「さりげなく消える間際のコメントのハードルを上げるのをやめてもらえませんか。期待されても、僕、うおおおおおおお!きさまあああああああ!とかしか言えないよ」



「大丈夫です、期待などはなからしておりませんので。戦闘中、亮さまには物理攻撃と特殊攻撃を一対二の割合で出していただきます。アイテム使用はなしです。特殊攻撃は三段階ございます。基本的には一段階目と物理攻撃を織り交ぜながら戦闘を進めていただき、体力が半分以下になりましたら二段階目解放、攻略寸前で三段階目解放という三段構えでお願いします」



「物理攻撃っていうのはこの剣のことだよね」

 僕はルイに渡されていたでかい剣を目の前にかざす。派手な装飾がじゃらじゃらとついた、温泉街のお土産屋に並んでいそうなデザインのものだ。結構重たい。



「へへー。よかったねりょうくーん。すごーい、なーんかつよそーう」

「馬鹿にしてんのか」

「滅相もございません。ちなみに実際に切りつけて傷つけるわけではないので、相手にダメージに亮さま自身の腕力は関係ありません。よかったですね」

「おい、馬鹿にしているだろ」

「さて、特殊攻撃の説明に移りますね」

「……」



「それぞれ発動する際には、大きな声で技の名前を叫んでください。私が今から技名を紹介しますから、後に続いて叫んでください」

「え、僕も言うの?ここで?あれ恥ずかしいからいやだよ!」



 慌てる僕には目もくれず、ルイは息を大きく吸い込んだ。そして叫ぶ。



「ライジング・レッドサンライズ!!!」

「ライジング・レッドサンライズ!」



 あたり一面が真っ赤に染まり、本番ならば敵がいるであろう場所が燃え上がった。

 見るからに熱そうである。



「アルベルト・サスペンション!!!」

「アルベルト・サスペンション!」



 今度は、敵がいるであろう場所にバネが現れてぴょんぴょんはねた。

 敵を場外へと追いやる技である。



「この技、ラスボスのわりにはしょぼくないか」

「そんなことないですよ。最強じゃないですか、場外にはじき出すなんて。ずる賢さの境地のような技です」



「あと技名も叫ぶとき恥ずかしい。さっき使ったときも、勇者にすごいにやにやされたんだけど。絶対これ掲示板とかに書きこまれてる!ライジーングwwwレッドサンラーイズwwwwみたいになってる!見たくねえ!」

「なんなんですか黙って聞いていればさっきから文句ばかり言って。そんなに人からの評価が気になりますか。魔王なんだから堂々といじられていればいいのです。愛される魔王を共に目指しませんか」

「なにそれ、最初に言っていたことと大分違いますけど。もしかしてこの技名ってルイが考えたの?」



「……でも、そこまで言うのなら仕方がないですね。私が一肌脱ぎましょう。代わりの特殊攻撃を考えます」

「おお、頼んだ!」

 ルイは眉間にしわを寄せて、わざとらしくうんうんとうなった。そしてしばらくして、したり顔で言った。



「熱転冷」



「なにそれ!」

「ルビは、hot to cold」



「具体的にはどういう技なの?熱したものを急激に冷やして砕くとか?」

ふふ、とルイは不敵に微笑むと、重大発表をするが如く声を低くして言った。

「お風呂場で浴びていたシャワーのお湯が、突然冷たくなります」



「……」

 地味だった。地味だったし、果たしてそれがダメージに繋がるのかと言うと疑わしい。



「なにをいうのですか!私は昨日の夜、とてもダメージを受けました!」

「いや、そりゃあ、ひゃっ!ってなるけど。びっくりするけど。ラスボスの技としてどうなの」



 ルイは折角考えたのに、と不服そうに頬を膨らませ、そっぽを向く。しかしそれもつかの間、いいこと思いついた!のポージングを取りこちらに向き直った。ころころと表情のよく変わる子である。



「じゃあ、冷転熱はどうでしょう」

「ルビはcold to hot?」

「その通りです!亮さまはさすがです!ちなみにこっちの技は、体が冷え切った秋口のプールのあとに浴びるシャワーをイメージしています!」

「ああ、プールの水温よりも暖かく感じてぬるい」

「そうです、それです!」

「それ、ちょっと嬉しくなるやつじゃ……」

「あっ」

「……やっぱりこの二つの技、ルイが考えたんだろ」



 これ以上のよいアイディアも出そうになかったので、とりあえず技はこのままでいくことになった。

 いじられてナンボ。親しみやすい魔王に、僕はなる。



「魔王なんだし、最強の必殺技ってないの?超回復!とか、生き返る!みたいなやつ」

「あー、あるにはー、ありますけれどー」

「あ、三段階目のやつだな。教えてよ、最強の技!」

「輪廻転生ってやつなんですけど、でもこれは」

「リンネテンセイ」



 あ、「輪廻転生」か、これだけ漢字なんだな、となどと思ったときには遅かった。

 さっきから叫ばされていたけれど、特殊攻撃は技名を唱えることが発動条件なのである。未知の技「輪廻転生」は効力を持ってしまっていた。





 視界がどんどん、白くぼやけていく。

 見える範囲も狭く、低く。

 血のめぐりが速くなったり遅くなったりで頭がくらんくらんして、立っていられない。

 苦しい。

 目をぎゅっとつむって、嵐の過ぎ去るのを待つ。

 




 落ち着いてきたので目を開くと、ルイが上から僕をのぞきこんでいる。

 吐息がかかってしまいそうなくらいに、顔が近い。

 そしてそのままの距離で、形のよい唇で、呟く。



「かわいい……」



 えっ。



 しかし、そう発した僕の言葉は、人間のそれではなかった。

 ルイに鏡を向けられて目視する。

 


 僕は犬の姿になっていた。



「柴犬……かわいい……」



 ルイはつぶらな瞳をきらきらさせながらこちらを見てくる。複雑である。

 なにか言おうにも全部「わんっ」「くうーん」といった声にしかならず、そのたびにルイはかわいいかわいいと悶えた。



「輪廻転生は、戦闘中一回だけ使用できる最終手段です。六道のうちの一つに、ランダムに転生します。なお、体力回復は転生した道によって異なります。これは六道〈てんどう〉〈にんげんどう〉〈しゅらどう〉〈ちくしょうどう〉〈がきどう〉〈じごくどう〉のうちの〈ちくしょうどう〉、つまり動物です。最強の技は用法用量を守って正しく使いましょうね、わんちゃん」



 ルイは言いながら、僕のことを力任せに撫でまわした。痛い。

 いいからはやくもとに戻してください、……ルイちゃん。


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