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世界のひだまりは、僕が守る  作者: 岩瀬華
4 仕事にすべてを賭けられますか?
17/21

15 トマト


先ほどの反省は全く生きず、思わず口をついて言葉が溢れた。

「僕が、人を……?」


「やっぱりこいつ、わかってないじゃないか」

僕の呟きにタツキが反応する。

「自分のしているこの重大さを、なんにもわかっちゃいないじゃないか!」

「タツキ……」

さっきまで語気強くタツキを止めていた楓も、タツキの様子を見守っていた。


「俺のじいちゃんは、魔王……お前に殺されたんだ」




タツキのじいちゃんは、僕もよく知っている。

タツキの家から自転車で15分くらいの場所に位置するじいちゃん家は、「古き良き農家」といった佇まい。

家の隣に大きな田畑を抱え、自家製の野菜やお米を売りつつ、自分の家族で食べたり、ご近所にお裾分けしたりしていた。

僕たちが遊びにいくと、いつも採れたての野菜をわけてくれた。ばあちゃん手製の晩ご飯をごちそうになる日もあった。

コマの回し方を習ったり、将棋を指したり、昔話をウンウン聞いたりーー。

「亮、腹が減ったらいつでもじいちゃん家に来い。なぁに、遠慮はいらない。タツキが世話になってるんだ、そんなもん、亮もオレの孫みたいなもんだ!ガハハ!」



そのタツキのじいちゃんを、僕が殺した。



「……タツキのじいちゃんは……農家でした。田畑に出て作物を育て、それをまわりに振る舞うことが、じいちゃんの生きがいだった」

おし黙る僕に、楓が語り出す。

「魔王がひだまりを集めだして、それが六割を超えた時でした。……じいちゃんの畑に当たるひだまりが……奪われてしまったんです……。日を追うごとに……どんどん減っていって、とうとう全ての田畑のひだまりが、消え去りました」

楓は、その時のことを思い出しながら話しているのだろう。瞳にはどんどん涙が溜まっていく。


僕も、想像する。

よく知っている、じいちゃんの家。

じいちゃんがトマトをもいで僕にくれた畑。

晩ご飯の食卓に並んだ、炊きたての白米。

じいちゃんたちの、汗水の結晶。

そんなじいちゃんの宝物が、どんどん暗闇に蝕まれていく様を。

その様子を、ただ見ているしかないじいちゃんを。

僕は、想像する。


「ひだまりを失った田畑は、あっという間に死にました。じいちゃんは……手塩にかけて育て上げた田んぼと畑を失って……そのショックで、体を壊しました。」

楓の瞳に溜まった涙は、耐えきれなくなってパラパラと床に散っていった。

「じいちゃんはどんどん弱っていって……。でも、それでも、だんだんと回復していってて。

それなのに……一ヶ月前くらい前の、あの日」


「……ひだまりが戻ってきたんだ」

タツキがここで、言葉を挟む。

「ほんのひと区画だったけど。じいちゃんの畑に、ひだまりが戻ってきたんだ。じいちゃんは、奇跡が起きたんだって、えらく喜んだよ。じいちゃんが孫みたいに可愛がってた俺の友達がいてさ、そいつが好きだったトマトを植えるんだって」


一ヶ月前。

それは、僕がバースデーパーティーを企画してひだまりを集めようとした時期。企画が失敗して、逆にひだまりが世界に逃げていってしまった時期。


そして、それは、つまり。


「でもそのひだまりはすぐに消えてなくなった」

楓は涙声で言った。

そう。僕が合宿を終えて、失ったひだまりを回収したからだ。


息が苦しい。

胸がどんどん狭くなる。

頭の奥が、遠くに追いやられていく感覚。


お願いだ。

その続きを言わないでくれ。

さもなければ想像と違う答えを僕にくれ。

頼む。


頼む、タツキ。



「そのせいで、じいちゃんは死んだ」

タツキは言った。


「お前が奪ったひだまりのせいで、じいちゃんは死んだんだ」


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