15 トマト
先ほどの反省は全く生きず、思わず口をついて言葉が溢れた。
「僕が、人を……?」
「やっぱりこいつ、わかってないじゃないか」
僕の呟きにタツキが反応する。
「自分のしているこの重大さを、なんにもわかっちゃいないじゃないか!」
「タツキ……」
さっきまで語気強くタツキを止めていた楓も、タツキの様子を見守っていた。
「俺のじいちゃんは、魔王……お前に殺されたんだ」
タツキのじいちゃんは、僕もよく知っている。
タツキの家から自転車で15分くらいの場所に位置するじいちゃん家は、「古き良き農家」といった佇まい。
家の隣に大きな田畑を抱え、自家製の野菜やお米を売りつつ、自分の家族で食べたり、ご近所にお裾分けしたりしていた。
僕たちが遊びにいくと、いつも採れたての野菜をわけてくれた。ばあちゃん手製の晩ご飯をごちそうになる日もあった。
コマの回し方を習ったり、将棋を指したり、昔話をウンウン聞いたりーー。
「亮、腹が減ったらいつでもじいちゃん家に来い。なぁに、遠慮はいらない。タツキが世話になってるんだ、そんなもん、亮もオレの孫みたいなもんだ!ガハハ!」
そのタツキのじいちゃんを、僕が殺した。
「……タツキのじいちゃんは……農家でした。田畑に出て作物を育て、それをまわりに振る舞うことが、じいちゃんの生きがいだった」
おし黙る僕に、楓が語り出す。
「魔王がひだまりを集めだして、それが六割を超えた時でした。……じいちゃんの畑に当たるひだまりが……奪われてしまったんです……。日を追うごとに……どんどん減っていって、とうとう全ての田畑のひだまりが、消え去りました」
楓は、その時のことを思い出しながら話しているのだろう。瞳にはどんどん涙が溜まっていく。
僕も、想像する。
よく知っている、じいちゃんの家。
じいちゃんがトマトをもいで僕にくれた畑。
晩ご飯の食卓に並んだ、炊きたての白米。
じいちゃんたちの、汗水の結晶。
そんなじいちゃんの宝物が、どんどん暗闇に蝕まれていく様を。
その様子を、ただ見ているしかないじいちゃんを。
僕は、想像する。
「ひだまりを失った田畑は、あっという間に死にました。じいちゃんは……手塩にかけて育て上げた田んぼと畑を失って……そのショックで、体を壊しました。」
楓の瞳に溜まった涙は、耐えきれなくなってパラパラと床に散っていった。
「じいちゃんはどんどん弱っていって……。でも、それでも、だんだんと回復していってて。
それなのに……一ヶ月前くらい前の、あの日」
「……ひだまりが戻ってきたんだ」
タツキがここで、言葉を挟む。
「ほんのひと区画だったけど。じいちゃんの畑に、ひだまりが戻ってきたんだ。じいちゃんは、奇跡が起きたんだって、えらく喜んだよ。じいちゃんが孫みたいに可愛がってた俺の友達がいてさ、そいつが好きだったトマトを植えるんだって」
一ヶ月前。
それは、僕がバースデーパーティーを企画してひだまりを集めようとした時期。企画が失敗して、逆にひだまりが世界に逃げていってしまった時期。
そして、それは、つまり。
「でもそのひだまりはすぐに消えてなくなった」
楓は涙声で言った。
そう。僕が合宿を終えて、失ったひだまりを回収したからだ。
息が苦しい。
胸がどんどん狭くなる。
頭の奥が、遠くに追いやられていく感覚。
お願いだ。
その続きを言わないでくれ。
さもなければ想像と違う答えを僕にくれ。
頼む。
頼む、タツキ。
「そのせいで、じいちゃんは死んだ」
タツキは言った。
「お前が奪ったひだまりのせいで、じいちゃんは死んだんだ」




