14 ともだち
その勇者は、番号札で呼ばれるやいなや、バァン!とけたたましい音を立てながら扉を開け、ずかずかと〈まおうのへや〉へ入ってきた。
「ようやくここまで来た……ぶっ殺してやる」
勇者は、凄みを効かせて僕を睨みつける。
その覇気に、思わず引き下がってしまいそうになるほどだ。
しかし「ぶっ殺してやる」とは穏やかではない。
いや、ラスボス戦なのだから本来「穏やか」なわけがないのだが。
ここに来たときの勇者のセリフは、「お決まりの」「いかにも」というようなものが多い。
「ひだまりを返してもらうぞ!魔王!」とか「光を奪いし漆黒の魔王に、正義の鉄槌を!」とか。
中には、友達の家にでも遊びに来たかのような勇者もいる。「また来たよ~」とか。「今日こそ勝つぜ!」くらいの、フランクな勇者もいる。
要するに、魔王討伐というのは、その程度のイベントなのだ。
本気で魔王を憎み、本気で魔王を「ぶっ殺してやる」と思ってやってくる勇者など、いないのだ。
なにしろ〈まおうのしろ〉は、アミューズメントパークなのだ。
そんな魔王制度の中で、ぬくぬく魔王業をこなしていた僕からすると、彼の本気の殺意には怯まざるを得なかった。
「待っていたぞ勇者よ……!返り討ちにしてくれる!」
心を懸命に落ち着け、「ありきたりのセリフ」を吐きながら殺気立った勇者一行を眺める。
……ん?
フードの下の勇者の顔。
なんだか見覚えがあるような……。
僕は最早遠いものになりつつある高校時代の記憶と、目の前にちらりと垣間見える顔を照合する。
タツキ……?
どうやら、殺気立った勇者はタツキ。
そして後ろにいる魔法使いは楓だ。
二人とも、僕と二年間同じクラスで、いつも連んで遊んでいた仲間たちだった。
やっぱり、こっちの世界にも、友達やクラスメイトがいるのか……!懐かしい気持ちが胸に込み上げる。が、妹・かすみの時の先例に倣って、声を掛けるのはぐっと我慢する。
「同じ外見だけれど、別ルートを生きる別人」。
「名前を呼ぶのは所有を意味する」。
でもどうしたってタツキのやつ、あんなに殺気立っているんだ……?
いつも温厚な姿からは、想像もつかないような、今までだって見たことのない剣幕だ。
少なくとも、僕がタツキと出会って友達になって以降、「ぶっ殺してやる」だなんて台詞を聞いたことは、オフザケであっても聞いたことがない。
僕、なにかしたっけ?
いや、してるんだけど。してるんだけど、さ。
「おい魔王……!なんだその、『なんでそんなこと言われなくちゃいけないんですか?』みたいな表情は!ふざけてんのか!」
うお。バレた。僕、そんなに顔に出やすいかなぁ。魔王として、それじゃまずいよなぁ。
なんていう内省は後先立たず。
勇者の……タツキの、火に油を注いでしまった。
「たっちゃん、落ち着いて。それじゃ倒せるものも倒せないよ」
楓はタツキに声をかけてなだめた。しかしタツキは、収まらないといった様子で続ける。
「それはそうかもしれないけど、でも……!アイツ、自分はなんにも悪くないっていう顔で澄ましてて……俺、我慢できないよ……!」
そう歯をくいしばるタツキに、楓はーーこれも以前までで見たことのない姿だがーー強い口調で言った。
「何言ってんの?相手は魔王なのよ?涼しい顔で人を殺すに決まってるじゃないの!いちいち罪悪感に駆られながら命を奪う魔王がどこにいるっていうのよ!」
……え?
人を殺す?
命を奪う?
誰が?魔王が?
……僕が……?




