12 ほのお
合宿編、後半です。
死ぬ。
死ぬ。
死ぬ。
何度そう思ったかわからない一週間が、ようやっと終わりを迎えた。
「お、おわった」
「お疲れ様でした亮さま!ご立派でしたよ!」
マネージャールックのルイが、座り込む僕の元へ駆け寄ってくる。
「これ、ハチミツレモンとスポーツドリンクです!」
「あ、ありがとう」
「ハイ、タオル♡」
「どうも……」
「ハチミツレモンもまだあるし、スポーツドリンクはあっちのジャグにたくさん作ってあるので、おかわり欲しかったら言ってくださいね!」
だから、なに部なんだよここは……!
しかし!
そんな日々も!
今日で終わりだ!
ふはは!
「ハチミツレモンよりも、ルイ。
これで僕はアップデートできるんだろうな!」
ルイは、「えっ」という顔をする。
「なんのことですか」
「はぁ?!」
僕の一週間!僕の筋トレ!僕の合宿!
鬼気迫る僕のオーラを感じ取り、ルイは「ああ!」と頭の上に電球をピコンと出す。
「そうでしたそうでした〜!そういうことにしてたんだしたね!」
「は?!あ?!どういうこと?!」
「一回やってみたかったんです」
あまりに若々しいマネージャーは、にっこりと小首を傾げた。
「マネージャー!とか、スパルタ特訓!とか、合宿!とか……!青春って感じするじゃないですか!」
「お、お前、それだけのために、一週間僕は……」
「差し入れと言えば、部活の先輩に差し入れするマネージャー!そしてそこから始まる恋……!
あ、申し訳ないですけど、亮さまのことをそういう対象として見ているという意味ではありません。ものの例えです。誰でもいいわけじゃないので」
「おい、必死に弁明するな。なにも期待していないが、そこまで言われると悲しくなるだろうが」
それに、ルイはマネージャーというより鬼コーチ。鬼コーチにハチミツレモン差し出されても、「有難や」とこそ思え、胸がトキメクとは思えない。鬼コーチに恋なんて、某スポ根テニス漫画じゃあるまいし……って、僕までルイの影響を受けてしまった。やれやれ。
「それでは、亮さま。こちらをお受け取りください」
おふざけモードを切るかのように姿勢を正し、ルイがこちらに向き直る。
「一週間、お疲れさまでした」
差し出されたのは、手の中でぽぉっと明るく輝く光の玉だった。
「これは……?」
手をかざすと、ほんのりと暖かい。
この暖かさはーー
「……ひだまり……?」
ルイは大きく頷き、僕の疑問符を肯定した。
「いかにも。これは、ひだまりの十%を詰めた特殊アイテムです」
目を凝らしてよく見ると、蓋のついた懐中時計のようなペンダントの中心、十字架の形をした窓が光源のようだった。この中にひだまりが詰められているのだろう。
ルイがペンダントの蓋をそっと閉めると、ひだまりは中にすっぽりと収まった。
「これを、亮さまに」
僕は恐る恐る、大事なひだまりが入ったペンダントを受け取る。
「ひだまりの力を、亮さまに預けます。亮さまは ひだまりの力を借りて、この世界における最大出力の技を発動することができるようになります」
「最大出力の……技」
「出力が最大、ということなので、使い手のキャパシティによって攻撃力には差があります。また、最大出力を使うことで、体力は減りませんが、精神的な疲労は大きくなります。
とはいえ、今回のこの合宿で亮さまの"気力"は多少なりも養われたはず……簡単には器が壊れることはないでしょう」
なんやかんや言いながら、僕の器のことを考慮しての合宿だったことが垣間見え、少し安心する僕。
「技の名前はーー〈業火俥〉」
ルイは言った。
「ルビは、〈ファイヤーエンブレム〉」
「ルイ、僕は」
僕は、我慢できずに、聞いた。
「僕には、他にできることはないのかな。その、……力以外のことで」
「いいのです」
「え?」
「亮さまは、亮さまのままで、いいのです」
予想外の答えに、僕はなにも言えなくなる。
「亮さまの闘いには、亮さまの良さが詰まっています。だから、そのままで、いいのです。亮さまのままで、勇者たちと闘っていけば、民と接していけば、焦らなくてもひだまりはすぐに全て回収できます」
いつもの罵りや皮肉の一切ない言葉、いつもの嘘くささのない言葉に、僕は打たれていた。
「だから」と、ルイは続ける。
「自信をもって。魔王さま」
珍しく、ルイにこんな風に真っ直ぐ励ましてもらったのに。
僕は、その日、ルイを今までで一番、遠くに感じた。




