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世界のひだまりは、僕が守る  作者: 岩瀬華
3 ひだまり集めのメソッドーーできる男の習慣術ーー
11/21

09 ハッピーバースデー

みんなのアミューズメントパーク、〈まおうのしろ〉!


僕はなんと重要な事実を忘れてしまっていたのだろう。

人々の心を集めるには、〈まおうのしろ〉、そして僕自身の人気を高めていくことが必要だ。


僕の知るアミューズメントパークのノウハウを、この〈まおうのしろ〉にも使っていこう。




そうすれば、少しでも早くひだまりが集まって。

少しでも早く、ルイは家族に会えるのだから。




「とうとう辿り着いたぞ魔王!成敗してくれる!」

勇者が扉を勢いよく開けた。その瞬間。




パパラパラパパーン♪

『勇者さま! ハッピーバースデー!』




楽しげな音楽と共に、パンッ!パンッ!とクラッカーが弾ける。

〈まおうのへや〉全体には、♪ハッピハッピー~バースデー~♪とBGMが流されている。

そして、壁には色とりどりの装飾。


〈まおうのへや〉にやってきた勇者さまは、思いがけない歓迎に戸惑いながらも

「え、どうも……ありがとうございます……」

と呟いた。


「いやー、勇者さまよく来たねぇ!」

僕はにこやかに、自分が被っているのと色違いのパーティー帽子を勇者さまに被せる。

「今日は本当におめでとう!」

お祝いを述べながら、さらに「本日の主役」のタスキもプレゼント。


「お誕生日なのに来てくれたなんて僕も嬉しいよ!」

「え、いや、あの……」

「恥ずかしがらなくていいんだよ。ケーキ食べる?コーヒーでいい?何歳になったの?」

「いやそうじゃなくて!これは一体なんなんですか?」

僕より年下、中学生くらいに見える男の子は、僕をじっと見つめながら尋ねてきた。


「なにって」

なにって言われても。

「……お祝い?」

「僕は祝われるためにここに来た訳ではありません」

「サービスサービスぅ」

「いりません」

あれっ、おかしい。こんなはずでは。

祝われて不快に思う人がいるのか?!


「ここに来るまでにも、様々なお祝いがありましたね。それもあなたの指示ですか」




そう、その通り。

〈まおうのしろ〉入り口にて、本日お誕生日の勇者及びそのパーティメンバーに「ハッピーバースデーシール」を無料配布。

シールを貰ったメンバーは、それを胸元に貼りながら〈まおうのしろ〉攻略に臨んでもらう。

「ハッピーバースデーシール」をつけているメンバーに対しては、〈まおうのしろ〉全体で全力でお祝いをさせていただくシステムだ。



例えば、各フロアのボスやモブモンスター、売店のお姉さんなど、出会ったあらゆる人物たちが毎回「ハッピーバースデー!」と声かけをしてくれる。

レストランで「ハッピーバースデーシール」を提示すると、特等席での食事が楽しめたり(一日五名様限定、予約不可先着順)、回復系ドリンクに「ハッピーバースデー」と書いてもらえたり。

さらに、〈まおうのへや〉前最後の売店では、なんとあのラッキーアイテム〈こうふくのこな〉をプレゼント!

そして!さらにさらに!〈まおうのへや〉まで到達したメンバーには、「魔王と過ごす誕生日パーティ」にご招待。夜景が抜群のフォトスポットも用意しておくぞ!




年に一度の誕生日を、思い出たっぷりに過ごせる完璧なプランニング。

これはプレミアがつくんじゃあないか。

話題のデートスポット十選に載っちゃうんじゃあないか。

〈まおうのしろ〉、そして魔王、大人気になっちゃうんじゃあないか。



と、思っていたのだが。



頭髪のどの部位にも段差がなく、耳もきっちり出ている「中学生らしい」黒髪。

今流行りのくるぶしソックスになんて目もくれません!というような白の靴下に白のスニーカー。

ホコリひとつない詰襟の首元には、キラリと光る校章とクラス章。

ニキビもなく整ったつやつやの肌の上には、カッチリした黒縁眼鏡。


そんな「中学生男子」の中でも学級委員か生徒会あたりをやっていそうな風貌をした勇者さまは、明らかに不機嫌だった。

あれか?僕が言うのもなんだが、思春期の反抗期的なやつか?

本当は嬉しいけど、素直に喜べない、的なやつか?



「俺は……俺たちは、本気で魔王と戦いに来ているのに、あなたたちはふざけているんですか。毎回モンスターと出会うたび、真剣な気持ちで、集中力を高めて、戦いに臨むのに。その都度その都度おめでとうございます!なんて、士気が下がります!それともそういう作戦ですか?!」




いや、これはどうやら本気で怒っているぞ。

ど、どうしたものか……。



キラキラのハッピーバースデー装飾の中、緊迫した空気とバースデーソングが流れる。


♪ハッピハッピー~バースデー~♪


……シュールだ……。




「ちょっとぉっ、やめなよぉ!」




冷ややかな空気をぶち壊し、僕たちの間に入って来たのは後方に構えていた女の子だった。

眉上でパッツンと切りそろえられた前髪、黒ゴムでくくわれた二つ結びというこれまた「中学生らしい」髪型。

最近ではついぞ見ない、三つ折りの白ソックス。

きれいにアイロンがけされた紺のセーラー服は、きっちり膝下。

胸元にはこれまた紺のタイがふわふわと揺れる。


この子はこの子で、学級委員、ないしは、なにかの委員会の委員長あたりを任されていそうな雰囲気がある。


「会長。魔王さんは会長のことを思って、こんな風におもてなししてくれているんだよ。そんな風に言ったら魔王さんかわいそうだよ」

「し、しかし委員長……!」


やっぱり彼は生徒会長、そして彼女はなにかの委員長のようだ。役職で呼び合っているところに、なんだか甘酸っぱさがある。

そして、先程までの威勢はどこれやら、ぐうの音も出ない会長さま。頬がほんのり蒸気している。


いいなぁ、こういうの。青春だなぁ。


「会長はいっつもそうじゃん。中央委員会のときも、自分の主張ばっかり捲したててさ。みんなのトップなんだから、そういうところ、直した方がいいと思うよ」

「そ、それは……!俺も頭に血が上って……!」

「そういうことじゃなくて!言い方のこと!

もっと相手の立場に寄り添った言い方ができないと、女の子にもモテないよっ!」

「えっ」

委員長に詰め寄られた会長さまの顔が、パーティ帽子と同じくらいに真っ赤に染まる。


おいおい。僕ここにいていいの?こういうのって、放課後の教室で二人きりでやるやつじゃないの?


真っ赤っかでしかない会長を無視し、委員長は「あっ!」と閃いたように続ける。


「そうそう!そういえばね!イマドキ男子に求められているのは"共感力"なんだって、お姉ちゃんの雑誌で読んだんだ」

「へ、へえ……」

「会長、好きな子がいるんでしょ?」

「へっ?!」

にんまりする委員長。目が三日月である。

目に見えて動揺する会長。茹で蛸よりも赤い。


ちょっと女子。

あんまり虐めないであげて。

やめてあげて。

会長のライフはゼロよ。


「ユカタンに聞いたよ~!帰ったら、相手が誰なのか教えてね!絶対誰にも言わないって約束するから!ね、"共感力"磨いてさ、がんばろうよ!恋!わたし応援する!」


おい!ユカタン!男子の繊細なヒミツを簡単に好きな人本人に開示してんじゃねぇ!世の男子を代表して僕が抗議するぞ!

確かにさ、会長さまはとんでもなくわかりやすいから、一般的なスキルのある女子なら「もしかしてワタシのこと……?!」ってなるかもしれないけどさ、この委員長は無理だぞ!無理だろ!


ユカタン!なんでわからないんだ!

委員長!お前は少しは気づけ!

会長はもうこれ以上茹らないぞ!


「あ、ああ…ありがとう……」

「恋のキューピッド役的な?わたし、そういうの超得意だから任せて!」

会長さまの肩を力強く叩く委員長。

「一緒に、彼女のハートを射止めようっ!」


委員長、もう完全に勘違いしている。

会長さま、今後ここからどうやって攻めるかという一手が試されますな。


心にクリティカルヒットを食らった会長は、言葉らしい言葉も発せずにその場に立ち尽くしている。


完全に停止した会長さまをさておき、委員長は今度はこちらへやってきた。

二つの毛束が、さらさらと肩の上を揺れる。


「魔王さんっ!」

「ハイッ」

何故だか背筋がピンッと伸びる。

「気持ちは超うれしいんだけど、ちゃんとやるべきことやって!」

「ハイッ」

「楽しいことは、全部終わってからやればいいでしょ。今は闘いの時間なんだから、集中してやらないと!みんなに迷惑がかかるんだよ」

「ゴメンナサイ」

「次からちゃんとやってくれる?」

「ハイッ」

「じゃあ、会長にもそう約束してくれる?」

「ハイッ」




……ああ、この気持ちはなんだろう。


掃除当番。係活動。合唱コンクールの前。様々な場面が僕の中に駆け巡る。


リーダー役の女の子が、中学生の間だけ使える魔法の呪文。


「ちょっと男子!ちゃんとやって!」発動!


その魔力が、僕をすっかり虜にしてしまっていた。


会長……ごめん……ぼく……ぼく……!

嗚呼、こみあげる、この気持ちはなんだろう……!



うおおおおおおお!

青っ春っ!!! ストラーイク!!!



溢れかえりそうになる心のダムを懸命に堰きとめながら、僕は上の空の会長と仲直りの握手をした。


「もうっ、男子は本当にしょーがないんだからっ」

膨らみがわずかにわかる、まさに成長途中の胸の前で腕を組み、「まったくもう!」のポーズを取る委員長。


ああっ、もうやめてっ。ぼくの青春スイッチをこれ以上連打しないで。ぶっ壊れちゃうよぉ!

数年前に記憶の奥底に葬った黒歴史。その中でひっそりと息を殺していた「中学生時代のぼく」が今、僕の中で暴れださんとしていた。




「うわああああああああああ!」




うわあああああああ!とうとうぶっ飛んだかぼくの自制心!!!


と、思ったが、叫び声は僕のものではなかった。


先程まで茫然自失で棒立ちしていた会長さまか、突然泣き叫びながら走って出ていってしまったのである。

「えええええ!かいちょおおおおおお!」

委員長も叫ぶ。会長の背中に向かって、叫ぶ。



え、なにこれ。なにこれ。



「中学生時代のぼく」が、驚きのあまり再び胸の奥底へと帰っていく。

ナイス、心のダム。ナイス、会長の発狂。


「ちょっと!待ってよぉ!……魔王さん、ごめんなさい、また来ますから!会長、一体どうしちゃったの?!待ってってばー!」


魔王へのフォローも忘れずに、会長の消えた方向に慌ただしく駆けていくツインテ。



そうして、〈まおうのへや〉には僕だけが残された。



♪ハッピハッピー~バースデー~♪



…………。




ピッ。

僕はBGMのスイッチを切った。

ハッピーバースデーサービス編、あと一回続きます。

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