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00 いりぐち
窓際の一番後ろの席。
ここが僕の指定席だった。
始業式の日、春の木漏れ日の中登校すると、クラス替えしたあとの名表が下駄箱に貼ってある。
「渡部亮」、自分の名前の所在を確認し教室に入ると、僕はまっすぐに指定席へと向かう。
この学年で「渡部」は名前の順最後の名字だ。名前の順で席に着く四月、僕は迷うことなく座席に着くことができるのである。
隅っこの席から見下ろす校庭の桜も、三回目。今年も授業の暇つぶしには困ることはなさそうだ。
しかし、今年は少し様子が違っていた。
僕が座るはずの場所には、大きな四角い箱が置いてあったのである。
いや、僕が座るはずの場所、という表現には語弊がある。
正確には、毎年僕の座席があるはずの場所は一つ前にずらされて、かわりにそこに大きな箱が設置されていた、が正しい。
そこには黒のゴシック体でこう書かれている。
「避難袋」
その三文字を把握した途端、大きな箱はがたんがたんと音を立て、数秒ののちに大口を開けて僕を飲み込んだ。