鬼ごっこ
これは企画小説「十一月の童話」です。テーマは「日本の童話」、「十一月の童話」で検索すると他の先生方の作品を読むことが出来ます!
昔、むかしのお話です。
秋も深まり、山の葉っぱは赤や黄色、色とりどりに染まってきました。近づいてくる冬の準備におわれて、山の動物たちも大忙しです。鮮やかな色の葉っぱ、豊かに実った木の実、せわしく駆け回る動物達。山はとても活気づいてきました。
そんな人里遠く離れた山奥に、一人の鬼の男の子が住んでいました。名前は黄鬼といいます。小さな鬼の子で、七つか八つくらいの人間の子供くらいの背丈しかありません。
黄鬼は人間と鬼の間に生まれた鬼の子です。黄鬼のお父さんは人間でした。とても優しいお父さんでしたが、もうだいぶ昔に死んでしまいました。鬼の寿命に比べて人間の寿命はとても短いのです。今は、鬼のお母さんと二人で暮らしています。
黄鬼は鬼の子ですが、髪の毛が金茶色でチリチリなのと、頭のてっぺんに一本だけ小さな角が生えていることをのぞけば、人間の子と変わりありません。黄鬼が住んでいる山奥には、他に鬼の子はいませんでした。黄鬼には遊び相手がいないので、いつも山の動物達と遊んでいました。
「お母さん、ボクも人間の子と遊びたい。山を下りて遊びに行ってもいい?」
黄鬼は鬼のお母さんにいつもせがみますが、お母さんの答えはいつも同じです。
「ダメよ。人間は鬼を嫌っているの。鬼だと分かれば怖がって逃げてしまうわ」
「ボクは人間を怖がらせないよ」
「絶対にダメ。人間の大人がやって来て、お前を捕まえてしまうわ」
「人間に捕まったらどうなるの?」
「お前を殺してしまうのよ。人間は見ためは弱いけれど、怖い生き物なの」
でも、お母さんは人間のお父さんと結婚したんでしょ? 黄鬼は心の中で思いましたが、そう言うとお母さんが悲しい顔をするので言いませんでした。黄鬼が覚えているお父さんは、いつも笑顔の優しいお父さんでした。
──人間にも、優しい人はいるよ。
お母さんに言われても、黄鬼はいつもそう思うのでした。
ある晴れた日の昼下がり。
黄鬼は、いつも一緒に遊んでいる小鳥のチチと、双子の子ぎつねコンとゴンに言いました。
「お母さんはダメだって言うけど、ボクは人間の子たちと遊びたいんだ。だから、今日は山を下りて遊びに行くよ」
それを聞いて、チチもコンもゴンもとても驚きました。山の動物の子供たちも、人里に下りて行ってはいけないと、いつも親に言われていたからです。
チチは声をあげてさえずります。人間には鳥のさえずりにしか聞こえませんが、黄鬼は鳥や動物の言うことが分かります。
『ダメダメ! 人間は怖いの。私の仲間も人間に鉄砲で撃たれて殺されたのよ』
『そうだよ、人間は怖いんだよ。里に下りていったら殺されるよ』
『罠がしかけてあるんだ。捕まったら大変!』
コンとゴンも黄鬼に言います。
「大丈夫だよ、気をつけるから。ボクは一緒に遊びたいだけだもの。ほんのちょっと遊んで来るだけだから」
そう言うと、黄鬼は山を下りて行こうとしました。
『黄鬼、行っちゃダメだよー!』
チチとコンとゴンは、黄鬼の背中に向かって叫びますが、黄鬼はどんどん山を下って歩いて行きます。コンは大急ぎで黄鬼の側まで走って行って言いました。
『黄鬼、鬼の姿のままではみんな怖がって遊んでもらえないよ』
『そうだよ、そんな髪の毛や角を見たら、逃げて行ってしまうさ』
後からゴンも走って来て、言いました。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
黄鬼は立ち止まって二匹に聞きました。みんなはしばらく考えます。
『変装すればいいんじゃないの?』
小鳥のチチが言いました。
「変装? どうやって?」
『コンとゴンに頼めばいいわ。この間、栗の実に変装出来たでしょ? 黄鬼の角を隠す頬被りと裸の体の上に着る着物になれば良いのよ』
コンとゴンは顔を見合わせました。黄鬼は縞模様のパンツ以外何も着ていないし、金茶の髪の毛と角は目立ち過ぎます。変装さえすれば、人間の子は黄鬼を鬼だとは気付かないかもしれません。
「良い考えだね。そしたらボクも人間に見えるよね」
黄鬼はニコリと笑いました。
「コンとゴン、ボクの頬被りと着物になってくれる?」
『いいよ!』
コンとゴンは喜んで返事をしました。まだまだ化けることに慣れていないコンとゴンでしたが、友達の黄鬼のためなら頑張ってみようと思いました。それに、本当はコンもゴンも人里に下りてみたかったのです。
さっそく、コンとゴンは着物と頬被りに化けてみました。最初はなかなか上手くいかなくて、大きすぎたり小さすぎたり派手すぎる着物や頬被りになりましたが、ようやく黄鬼にピッタリの着物と頬被りに化けることが出来ました。
黄鬼はコンとゴンが化けた、藍色の格子柄の着物と藍色の頬被りをつけました。どこから見ても、人間の子にしか見えません。黄鬼は人間になったような気分になって嬉しくなりました。
チチは、黄鬼の肩の上にチョンと乗ります。
『わたしもついて行くわ。コンとゴン、絶対狐にもどっちゃダメよ』
チチも嬉しそうにさえずります。チチも本当は山を下りてみたかったのです。
黄鬼とチチとコンとゴン、みんなワクワクしながら、生まれて初めて人間の住む人里まで下りて行きました。
人里に近づくと、風にのって子供たちの元気な笑い声が聞こえてきました。人間の子供たちは、今日も楽しそうに遊んでいるようです。
「ひとーつ、ふたーつ、みっつ──」
一人の男の子が数を数えています。その間に、他の子供たちは彼から遠ざかって逃げていきます。子供たちは鬼ごっこをしているようです。数を数えている男の子が鬼です。
「よっつ、いつつ!」
男の子が五つまで数を数え終えた時、黄鬼は男の子の目の前に飛び出して行きました。
「ボクも遊びに入れて!」
すぐに走って行こうとしていた人間の子は、黄鬼の姿を見てびっくりしました。
「だーれ?」
村では見かけない子供。それに、変わった着物と頬被りをしています。他の子供たちも黄鬼のまわりに集まって来ました。
「ボクは黄鬼!」
黄鬼は元気に答えました。
「キキ? 変な名前。どこに住んでるの?」
「山の中だよ」
「山の中?」
村の子供たちは顔を見合わせて不思議そうな顔をしました。小鳥のチチは心配そうにさえずります。黄鬼が鬼だと気付かれないか気がかりです。
「山には誰も住んでないよ。住んでるのは動物と鬼だけだ」
一人の子が言いました。
「ボクは──」
黄鬼は自分が鬼だと言いそうになって、口で手を押さえました。頬被りと着物も心配そうに震えてます。
「山の中のもっと先の村に住んでるの」
「ふーん」
子供たちはジロジロと黄鬼を見つめます。
「どうして頬被りをしているの?」
「えーと……」
黄鬼がどう答えようか迷っていると、一人の小さな女の子が言いました。
「キキは歯が痛いのね? あたしも歯が痛い時はほっぺがはれて、ほおかむりをしていたもん」
女の子はニコニコしながら黄鬼を見上げました。女の子のかわいい笑顔を見ていると、黄鬼も楽しい気持ちになってきて、女の子に笑ってみせました。でも、黄鬼の小さな鬼歯が見えないように、頬被りのコンは黄鬼の口元を隠します。
「一緒に鬼ごっこしようよ!」
女の子が元気に言いました。
「うん!」
黄鬼は嬉しくなって、元気に返事を返します。
「じゃあ、最初から数を数えるよ」
さっき数を数えていた男の子が言いました。小さな女の子以外はまだ黄鬼のことを変に思っていましたが、みんなそれぞれ男の子から離れて行きます。黄鬼も鬼役の男の子から離れました。
「ひとーつ、ふたーつ、みっつ」
男の子の甲高い声が、辺りに響きます。黄鬼はワクワクしてきました。
「よっつ、いつつ!」
数を数えた男の子は、勢いよく走り出します。他の子供たちは歓声を上げながら、男の子から逃げていきます。黄鬼の側を飛んでいた小鳥のチチは、黄鬼にさえずります。
『黄鬼、早く逃げて!』
黄鬼は人間の子と遊べるのが嬉しくて突っ立っていたので、少しだけ出遅れてしまいました。チチの声がして、慌てて走った時には、もう男の子が側まで走って来ていました。 黄鬼は走って逃げますが、男の子は黄鬼を狙って走ってきます。どんどん黄鬼に迫ってきて、黄鬼の格子柄の着物に手をかけてきました。
「つかまえた!」
男の子は黄鬼の着物、ゴンが化けている着物を勢いよく引っ張ります。
「わーっ!」
黄鬼は前のめりになって、ステンと転んでしまいました。その拍子に驚いたコンとゴンは、頬被りと着物になっていることを忘れ、元の狐の姿に戻ってしまいました。子供たちは、いきなり姿を現した二匹の狐に目を丸くします。
そして、もっと驚いたのは黄鬼の姿です。着物と頬被りのなくなった黄鬼は、普通の鬼の子供になっていました。金茶色の縮れ髪をして、ヘンテコな縞のパンツをはいた黄鬼。子供たちは、恐る恐る黄鬼に近づいてきます。チチは大きな声でさえずり、狐に戻ったコンとゴンも、木の陰に隠れて心配そうに黄鬼を見つめています。
倒れた黄鬼は、ゆっくりと身を起こしました。体が痛くて涙が出てきます。黄鬼は鬼の姿に戻ったことも忘れ、声をあげて泣き出しました。
「いたいよぉ、お母さーん!」
黄鬼の瞳から、大粒の涙が落ちてきます。
「だいじょうぶ?」
遠巻きに黄鬼を見つめていた子供たちの中から、さっきの女の子が黄鬼に近づいて来ました。女の子は心配そうに黄鬼の顔を覗き込みます。
しゃくり上げていた黄鬼は、手で涙を拭くと女の子を見返しました。
「キキ、頭に何か生えてるよ」
女の子は、黄鬼の小さな角を不思議そうに見つめました。
「それはなーに?」
「これは角だよ……お母さんにも生えてるの。お母さんのはもっと大きいんだ」
黄鬼は、そっと頭の角に手を伸ばして触ってみました。
「角? 面白いね。あたしたちには生えてないのよ」
子供たちは珍しそうに黄鬼の角を眺めました。村の子供たちは、まだ一度も鬼を見たことがありません。鬼の姿がどんなのかは、誰も知りません。鬼は怖い生き物で山奥に住んでいるのだと、親たちから聞いていただけです。誰も、黄鬼が鬼だとは気付きませんでした。
「着物はどうしたの?」
「着物? どこかへ行っちゃった……」
黄鬼はキョロキョロとコンとゴンを探しましたが、二匹は木の陰に隠れたままです。
「寒くないの?」
「ううん、寒くない」
黄鬼は首を横に振ります。鬼は着物を着なくても、ちっとも寒くないのです。
「面白い模様のパンツだね」
子供たちはパンツだけの黄鬼の姿が面白くて、声を立てて笑いました。黄鬼もつられて笑います。いつのまにか、体は痛くなくなりました。
「鬼ごっこの続きしようよ!」
笑って元気になった黄鬼は、子供たちに言いました。
「いいよ。今度はキキが鬼だからね」
「うん!」
黄鬼は元気よく立ち上がりました。子供たちは黄鬼の周りから離れて行きます。
「ひとーつ、ふたーつ、みっつ──」
黄鬼は、さっきの男の子の真似をして、大きな声で数を数え始めました。心配していたチチやコンやゴンも、楽しそうに遊び始めた黄鬼と子供たちの姿を見て、ホッと安心しました。
黄鬼は人間の子供たちと遊べたことが、嬉しくてしかたありません。家に帰ったら、お母さんに話すつもりです。人間の子は、お父さんみたいに優しかったと。
真っ青な高い空の下、黄鬼と子供たちの元気な笑い声が響きます。子供たちと黄鬼の鬼ごっこは、夕暮れまで続きました。 了
なんとか十一月に間に合いました! 最初は全く別の作品を書いていたのですが、途中で書き詰まって新しく書きました。^^; 日本の童話は初めて書きましたが、なかなか楽しかったです。日本の雰囲気が出ていればいいのですが…。




