第六話『観測』
格納スペースは、まだ熱を持っていた。
ベルトを外しても、喉の奥のざらつきだけが残る。
(あの“キン”……まだ耳の奥にいる)
澄んだ音の衝撃のはずなのに、微小なズレをハルカの直感は受け止めていた。
(不協和音……?)
「こっちだ」
ケルビンが歩く。帽子の影は動かないのに、歩幅だけが迷わない。
ドミ姐は椅子に座ったまま言った。
「要点を言え」
ケルビンが短く返す。
「街路で残滓。バイオンで固定。拘束は成立」
「……最後に“目”が出た」
「線が崩れた瞬間は?」
ドミ姐の声は冷たいんじゃない。線を引く声だ。
「崩れてない。揃ったまま、中心がへこんだ」
「見返してきた」
ハルカは喉に手を当てる。
(言葉にできない。でも――見た)
ビープが一歩だけ前に出た。
「言っていいかお」
ドミ姐が頷く。
「許可する」
「あれは残滓じゃないお。観測してるお」
「固定に反応したお。揃えると向こうも揃ってくるお」
ハルカの脳裏に、連鎖で消えるパズルがよぎった。
(囲えば落ちるはずなのに――あれは“残る側”だった)
ビープが吐き捨てる。
「……嫌なタイプだお」
ドミ姐が短く言った。
「理解した」
「揃えたのは良い。だが観測された」
「次は中心を守れ。手順を変える」
ビープが即答する。
「おk」
ケルビンが帽子のつばを押さえ直す。
「次は早い」
「偵察を兼ねる。男チームで行け」
ドミ姐の指示が落ちた。
「息抜きのちょっとした買い出し、ってトコね♡」
静かに話を聞いていたフェル姉も微笑む。
ケルビンが顔をしかめる。
「……市場かよ」
ビープが小さく言った。
「市場は情報の宝庫だお」
ハルカは、息を吸う。
戦闘じゃない。けど、任務だ。




