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第4話 前編『見えなかったものが、見えた日』

壊してしまった村を後に、晴歌はひとり歩き続けていた。

胸に残るのは「もう間違えたくない」という願いだけ――。

あの村を壊してしまってから、二日ほど歩き続けていた。

風の匂いも、鳥の鳴き声も、ただ現実を突きつけてくるだけだった。

道なんてない。

けれど立ち止まると、あの子の声がまた聞こえてきそうで。


【壊した数:3】


その表示は、まだ視界の端に張り付いたままだ。


(次は、間違えたくない……)

もう二度と、命を奪いたくない。 壊すだけの存在にはなりたくない。

その願いだけを胸に、晴歌は歩き続けていた。


***


森の奥に、空気が澄みきった一帯があった。

音が吸い込まれるような静寂。

風も、光も、葉擦れの音も、すべてがやわらかく包み込んでくる。

ここがダンジョンだとは、とても思えなかった。


(……ここも、ダンジョン?)


だが、どこか心地よい。

そして何より――近くに”誰か”の気配がある。

人がいるなら、また同じことを……そんな不安が胸をよぎったとき。


「珍しい子が来たな」


振り返ると、陽光を弾くような金色の髪をした少年が立っていた。

その横には、同じく金髪の少女。

よく見ると、二人とも耳の先が尖っている。


「人族か。しかも、異国の空気を纏っている。面白い」


双子のようにそっくりな二人。

けれど、目の奥の光は違っていた。

片方は静かに観察し、もう片方は好奇心を隠さずに見つめてくる。


(この人たちは……敵意がない?)


「あぁ…ここも一応ダンジョンになるのか。結界張ってたんだけど…しょうがないか」


「あ…すいません…」

晴歌は反射的に頭を下げた。

また迷惑をかけてしまった、という罪悪感が胸を締め付ける。


「謝らなくていいわよ。そういう時もあるよね」


少女の声は、意外なほど優しかった。


「……34年ここにいるけど、そうそうない事だよ」


少年も淡々と言いながら、晴歌を見つめる目に敵意はない。


(34年……?漫画とかでは、エルフって長寿の設定だったけど、本当なんだ……)


「……なんかボロボロねぇ……」

少女がじっと晴歌を観察する。

確かに、泥まみれの服に疲れ切った表情。

きっと見るからに痛々しいのだろう。


そのとき、ぐぅぅ……とお腹が鳴った。


森の静けさの中で、やけに響く音。


「あなた……お腹、減ってるの?」

少女が首を傾げる。


「それに、ちゃんと寝てる?」


「えっと……その……」

言い淀みながら、顔が熱くなるのを感じた。


そうだ。

この世界に来てから、一度もまともに食べていなかった。


(こんなところで、恥ずかしい……)


「ねぇ、この子、面白そうだし、ご飯あげてもいいでしょ?」

「面白い……そうだね。確かに」

少女がふわりと笑う。


「私はエルフのフィアナ。こっちは双子の兄、ティオ」


「……晴歌です」


ようやく名乗ると、二人は微笑んでうなずいた。 久しぶりに向けられる、温かい笑顔だった。

→【第4話 後編は こちら】

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