第2章 第21話『神の終わりを願う声』
「うわっ……」
目の前が眩しすぎて、思わず瞼を閉じてしまう。
けれど、これが創造神という存在のいる場所なら納得できる気がした。
『……私に何の用だ』
聴こえてきた声は、幼さの残る高めの声。
「この声……もしかして」
『久しいな、晴歌』
周囲の光が落ち着いてきたようで、少しずつ目を開けられるようになった。
でも、周りには何もない。ただ真っ白な空間が広がっているだけ。
目の前で宙に浮いている少年は、私を呼んだあの神だった。
「あなたが……創造神?」
『違う。創造神は私を創った存在だ』
「え……じゃあ、あなたは……」
『お前を呼んだ神だ』
正直、創造神っぽく見えなくもない。
白い髪や瞳は光の当たり方によっては虹色の光にも見える。肌も白く、中性的な顔立ちで、儚げな美少年という感じだ。
『お前には色々聞きたいが、まず何しに来た』
「こっちも沢山言いたいことあるし、聞きたいこともある!」
白い神が手を振ると、ソファとテーブル、ティーカップやスイーツが現れた。
『——とりあえず座れ』
「へ?」
追い出されるとか怒鳴られるかと思ったけど、思ったよりいい人……?
『人間はこういうものを好むのだろう?』
拍子抜けしてしまって、何に怒っていたのかすっかり忘れてしまった。
思い出そうとしている様子に呆れたのか、神の方から切り出した。
『私がお前に与えた力は、破壊と不老不死のみだ』
「それは……知ってる。でも、他にも色々な魔法が使えるようになって——」
『それは禁書の力だ』
白い神が真っ直ぐ晴歌を見つめる。
『お前が最初に触れた禁書——あれは創造神が作ったものだ』
「創造神……?」
『私を創った存在だ。私たち神々も、創造神によって生み出された』
ナスタが言っていた創造神。本当にいたんだ。
『禁書には、様々な魔法の知識が封じられている。破壊、治癒、蘇生、そして創造』
「治癒……? 蘇生……?」
晴歌は思わず立ち上がった。
「私、そんな力持ってないよ! 使えるのは破壊と、防御とか他の属性の魔法だけで——」
『本当にそうか?』
白い神が手を伸ばす。晴歌の胸が、ほんのり温かくなった。
『今、何を感じた?』
「……温かい……?」
『それが治癒の力だ。お前の中に、ずっと眠っていた』
晴歌は自分の手を見つめた。この手に、人を治す力が?
「じゃあ……村で死んだ子どもも……ダンジョンで死んだ人たちも……」
声が震える。
『可能性はある。だが——』
白い神が少し寂しそうに笑う。
『力の使い方は、私にも分からない。禁書の力は創造神のもの。私たちでさえ、その全てを知ることはできない』
白い神が真っ直ぐ晴歌を見つめる。
『お前自身が見つけるしかない』
「じゃあ……あの巨大なダンジョンは?」
『それもお前だ』
晴歌の胸が締め付けられる。
『お前は帰りたかった。父に会いたかった。その願いが強すぎて、無意識にダンジョンを創造してしまった』
「私が……」
『破壊の力は、創造の力でもある。表裏一体だ』
白い神が手を伸ばすと、空中に光の粒が現れる。それが形を成して、小さな花になった。
『創ることと壊すことは、同じ力の両面だ。お前はそれを制御できていなかっただけだ』
「私のせいで……人が死んだ……」
『そうだ』
容赦ない言葉。
『だが、それを責めるつもりはない。お前は知らなかった』
「でも……」
『お前は今、その力を使って人を救おうとしている。それでいい』
白い神が虚空を見つめる。
『私は……何度も世界を創ってきた』
「え……?」
『だが、維持できない。どうしても、壊れてしまう』
白い神の声が震える。
『他の神々はできるのに。私だけが、できない』
「……」
『教えを乞うても、何度試しても、やはりできなかった』
白い神が小さく笑う。それは、自分を嘲笑うような笑いだった。
『それでも、神として生まれた以上、創り続けなければならない。できないのに、やめられない』
晴歌の胸が痛んだ。
『だから……もう、終わりたい』
◇ ◇ ◇
大きな地響きと音。
リュゼルは立っていられなくなり、地面に膝をついた。
天井から石が落ちてくるのを、倒した魔物を盾代わりにして防ぐ。
五分ほど経っただろうか。揺れが止まり、足元に光が差した。
「え……?」
魔物を降ろして立ち上がると、ダンジョンは消えていた。
周囲には倒された魔物、命を落とした冒険者たちが草の上に横たわっている。
「どういうことだ……?」
テント側からざわつきが起こり、ナスタが走ってくる。
「ナスタ! これは一体——」
ナスタは片手の槍を、リュゼルの方向に投げた。
「そのままじっとしていて!!」
ビュンと耳元で音がした瞬間、五メートルほど離れた魔物に命中した。
「まだ魔物が向かってきますよ!」
両手剣に持ち替え、リュゼルの横で構える。
「ハルカが怒って神への扉を作って入ってしまいました……」
「……どういうことだ?」
「だからダンジョンも消えました。ただ、ダンジョン内にいた魔物は残ったようですね」
「……まだダンジョン内の方が良かったってことか」
「リュゼルさんは上空から、魔物がどの範囲に広がっているか見に行けますか?」
「わかった」
リュゼルは頷き、イグニシアの背に飛び乗った。
ハルカがどう神に喧嘩を売ったのか分からないが、せめて戻ってくるまでには、魔物は殲滅しておこうと思った。
◇ ◇ ◇
「私……どうすればいいの?」
『それはお前が決めることだ』
白い神が立ち上がる。
『選択肢は三つある』
白い神が指を一本立てる。
『一つ目は、元の世界に帰ること。お前の願いを叶えてやる』
晴歌の胸が高鳴る。お父さんの顔が浮かぶ。
「でも……まだ100個壊してない……」
『今回の巨大ダンジョンは、小さなダンジョンが無数に集まったものだ。100はゆうに超えただろう』
「え……」
二本目の指が立つ。
『二つ目は、この世界に残ること。お前の力で、人々を守り続けること』
リュゼルの顔が浮かぶ。ティオとフィアナの笑顔。
そして——三本目の指。
白い神の表情が、どこか寂しそうに見えた。
『そして三つ目は……私を、終わらせてくれないか』
「終わらせる……?」
晴歌は息を呑んだ。
『私が消えれば、この世界も——』
白い神が言いかけて、口を閉じた。
「どういうこと?」




