第2章20話 『神への直談判』
あの夢を見たからだ。
陽翔がおじいちゃんになって死ぬ夢。
そう、あれは夢。
でも、ダンジョンは明らかに大きくなっている。1.5倍……いや、もっとかもしれない。
夢を見ただけで、こんなに大きくなるなんて。
夢でも見たくなかった。
ーードウスレバ イイ?ーー
帰りたいと思えば、ダンジョンが増える。
あの少年の言った言葉は正しかった。
『元の世界に戻りたかったら100のダンジョンを壊せ』
そういうことなんだ。
勝手にこの世界に喚んでおいて、帰りたいって思うなっていうの?
そんなの、無理に決まってる。
私を喚んだあの白い少年……神は、何を私にさせたいの?
胸の奥で何かがぷつんと切れた。
「ねえ、ナスタさん」
「ん? どうしたの?」
晴歌はナスタの腕を掴む。
「いたっ……」
力が入りすぎたようで、ナスタの顔が少し歪んだ。
謝らなきゃと思うのに、口からは怒りが溢れてくる。
「神に会うにはどうすればいい?」
「神? ……どっちの?」
「どっちって……白い……いや、その上の人!!」
「ええ!?」
「神様たちにもリーダーとか、まとめる人とかいるんでしょ! その人に言ってやるから!」
「えええええ?」
ナスタは普段出さない声で驚いている。
晴歌はナスタから離れ、ぶつぶつと独り言を呟く。
「できないかな……いや、でも……もしかして……」
「ハルカ……ちょっと落ち着いて」
「私は落ち着いてるよ? ナスタさん」
「ヒッ!」
なんかナスタさんが怖がってるけど、構ってられない。
この世界のダンジョンが私の思いや感情で現れるなら……。
「ハルカ! ちょっと待って!!」
晴歌は目を閉じて集中する。
(陽翔や黒い神と会うのはダンジョンの中だった。なら、今会いに行くべき人は……)
休んでいた木の幹に、大理石でできた両開きの扉が現れた。
扉の周りには蔦や花が咲いている。エルフの世界に繋がりそうな、神秘的な扉だ。
きっと、この中に入れば……。
「待ってってば! 一度リュゼルさんに声かけた方が」
「ナスタさん、お願いします」
「……お願い事、多いわよ」
「文句は神様に言ってください。ナスタさん、連絡取る方法あるんですよね?」
「……そ、それはまあ……」
扉に手をかざすと、白い光とともに扉が開く。
「リュゼルにごめんって伝えてください。ナスタさんもありがとう」
吸い込まれるように晴歌の体が中に入っていき、扉は閉まった。
ナスタは手を伸ばしたが、光の壁に弾かれて触れることすらできない。
止められなかった。いや、止めるべきだったのだろうか。
ナスタは唇を噛む。
(……ハルカの言い分は、正しい)
帰りたいと願うだけでダンジョンが増えるなんて、あまりにも理不尽だ。
彼女が怒るのは当然で、創造神に文句を言いたくなる気持ちも分かる。
でも——。
「違うでしょ……私には『ありがとう』じゃないでしょう」
ナスタは閉じた扉を一瞥し、踵を返す。
「お父様に頼まれたとはいえ、何よこの役……」
ナスタはダンジョンの方へ駆け出しながら、心の中で呟く。
(まさか、本当にあの方に会いに行くつもりじゃ……)
背筋に冷たいものが走る。
リュゼルに怒られるどころの話ではない。
創造神に会うということは——。




