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ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第2章 『束の間の平穏』

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2章14話 『私が作ったダンジョン』

 入り口に足を踏み入れた瞬間、地面が悲鳴を上げた。


 土と草が、砕け散る。

 ――まただ。


「キシャアアアアアアアア!」


 複数の中型モンスターが、晴歌に殺到する。


「危険だ! そこから離れろ!」


「正気か、あの子は!?」


 ダンジョンから退こうとしていた冒険者たちが、剣を抜いて駆け寄ってくる。

 だが、モンスターの方が早かった。


「来ないで! 止まってください!」


 振り払うように手を伸ばす。

 次の瞬間、獣たちは硝子細工のように砕け散り、光となって消えた。


「……助かった……?」


 冒険者は、砕け散った跡を見つめ、言葉を失っていた。


「……もしかして、壊す者か」


 感謝よりも、怯えが勝った声だった。


 晴歌は横目で一瞬だけ彼らを見て、そのまま奥へ進もうとする。


「待て! これ、持っていけ」


 投げ渡された革袋は、ずしりと重かった。

 中には保存食と回復薬。


「国も動いてるらしいが距離が遠い。騎士団はすぐ来れん」


「奥に行くなら、備えはあった方がいいだろ」


 さらに別の冒険者たちも近づき、次々と袋を差し出す。

 いつの間にか、腕の中はいっぱいになっていた。


「俺たちはこのダンジョンを攻略できそうにない。でも……できることはする」


「君が噂の人間なら……助けてほしい」


「さっきは、ありがとう」


 ――この人たちは知らない。

 私が、このダンジョンを生んだことを。

 人が死んでいることも。


 それでも。


「……こちらこそ。ありがとうございます。……ごめんなさい」


 その言葉を、彼らは笑って受け取った。

 けれど、受け取られなかったものが、確かに残った。


 視界がにじみ、彼らの表情がぼやけた。


 ◇ ◇ ◇


 五百メートルほど進むと、モンスターの出現は目に見えて減ってきた。


「国を横切るなんて……」


 地図で見たあの広さを思い出す。

 胸の奥が、ひやりと冷えた。


 ――私は、どれだけ壊せば終わるんだろう。


 意識を集中し、サーチを広げる。


 遠くに、人の気配。

 その周囲をうろつく魔物の反応。

 さらに――消えかけた、微かな光。


 息が詰まる。


 あれに触れれば、私の力じゃ……壊してしまう。


 距離は……二キロほど。


「……ここまで」


 願うように、空間を引き寄せた。


 轟音。

 地面がうねり、天井から岩屑が降り注ぐ。

 外から、悲鳴が響いた。


 視界が揺れ――。


 距離は二キロ――のはずだった。

 だが、引き寄せられた空間は、ほんの少しだけ、ずれていた。


「……どうしよう。

 私、ちゃんと“選べて”ないかもしれない」


 奥で戦っていた冒険者が、呆然と周囲を見回している。


「え……? 外の光が……?」


「危ない!」


 咄嗟に防御魔法を張る。

 飛びかかった魔物は、膜に弾かれ、光となって消えた。


「すみません! この先に、どのくらい人がいますか!」


「……分からない。ここから入ったのは、多分、私だけ」


「この入り口……?」


「ええ。あちこちに穴が空いてるって聞いたわ。そこから人も、魔物も……」


 やはり。


 ――やることは同じ。


 探して、判断して、引き寄せて、壊す。


 このダンジョンは、私の想いが形になったもの。


 ……なら。


 私の意思で、終わらせられるかもしれない。


「あなた……変わった魂ね」


「……魂?」


 冒険者は短く呪文を唱え、淡い光の膜を晴歌の周囲に張った。


「さっきのを繰り返すんでしょう?」


「……はい」


「魔力は?」


「……正直、分かりません」


 破壊の感覚と、魔法の消耗は、どこか違っている。


「十二時間だけ、回復する魔法をかけたわ」


「……十二時間!?」


「多すぎたかしら」


 微笑んでから、続ける。


「私は入り口の方を支援する。頃合いを見て、また戻るわ」


「あなただけの戦いじゃないもの」


 胸が締め付けられる。


 ……私が原因なのに。


「言わなくても、分かっているわ」


「あなた、晴歌でしょう?」


 息を呑んだ。


「……どうして」


 彼女の瞳が、一瞬だけ別の色を宿す。

 周囲の魔力が、ざわりと歪んだ。


「私は神の力を引き継いでいるの」


「元凶が、あなたじゃないことも知っている」


「……あなたを呼んだ“あの白い存在”ではない?」


 背筋に冷たいものが走る。



「今は人族として生きているわ。敵対する気はない」


「まずは、このダンジョンをどうにかしましょう」


「一キロ先まで、私の結界がある。その先はわからない。」


「……ありがとうございます」


 信用していいのか分からない。


 けれど今は――。


 晴歌は、奥へ続く闇を見つめた。


 そこには、まだ――彼女自身も知らない“何か”が待っていた。


「あ、待って」


 急に声色が柔らぐ。


「他に、何か手伝える?」


 少し考えてから、口を開いた。


「……二つ、お願いがあります」


「名前を、教えてください」


「アナスタシア・ベロゴール。ナスタでいいわ」


「ナスタさん」


「ええ」


「もう一つ……」


 言い終わった瞬間。


 ナスタは一瞬だけ口を開き、何も言わずに閉じた。


 その表情は、先ほどまでとは違っていた。

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