第2話『壊すことで、私は何を守ったのか』後編
どれだけその場にいたのかは分からない。
気づけば、日が落ちていた。
部屋の中は真っ暗で、月明かりだけがぼんやりと差し込んでいる。
泣いて、少しだけ眠ったのだろう。頭がスッキリしていた。
「……それにしても、ダンジョンって、どうやって壊すんだろう……」
独り言が漏れる。
「全部が全部、触れば壊れるわけじゃないし……説明不足じゃない?あの白い人……」
その瞬間、空気が変わった。
物陰から、黒い塊が飛びかかってきた。
さっきの遺跡で見た“影”と似ているが、どこか違う。
反射的に、腕を振る。
瞬間、黒い影は塵となって消えていった。
静かになった部屋に、晴歌の息だけが残る。
手には、かすかに“ぬくもり”の感触が残っていた。
(……あれ、今の……)
ただの化け物のはずなのに――
最後に触れた“何か”が、妙に生々しかった。
不意に、館の中が揺れ始めた。
床がきしみ、天井の一部が崩れ落ち、壁に光の粒が走る。
「……また……壊れていく……」
自分が壊したんだ。
あの遺跡と同じように――いや、それ以上に、大切なものを。
さっきの家族の絵も。
誰かが暮らしていた記憶も。
そこにあった、あたたかな日常も。
全部――
自分が、壊してしまった。
(この場所には、“誰か”が確かにいた……)
前とは、違う。
ただ壊せばいいってものじゃない。
“壊す”ことの意味が、静かに心にのしかかってくる。
何かを消すということは、そこにあった“想い”も、一緒に無くなるということ。
崩れ落ちた館の跡に、再びウィンドウが現れた。
【記録:2/残数:98】
【状態:安定】
晴歌はそれを、しばらく黙って見つめていた。
またひとつ、壊した。
またひとつ、帰るために“何か”を消してしまった。
でも、なぜか。
前よりも少しだけ、胸の奥が重かった。
壊せば帰れる。
それは確かに、事実のようだ。
でも――
「ほんとに、これでいいのかな……」
空は、あの日と同じように青いままだった。
けれど、晴歌の中にある感情は、ほんの少しだけ、変わり始めていた。




