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ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第2章 『束の間の平穏』

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第2章 第5話『星空の下の告白』

森の入り口で、騎士団が待っていた。

二人の姿を見つけた瞬間、騎士たちが駆け寄ってきた。


「リュゼル殿! 無事でしたか!」

「ハルカ殿も……その傷、大丈夫なのか?」


晴歌の腕や頬の細かい傷を見て、騎士たちの表情が心配そうに曇った。


「大丈夫です。禁書の力を消すときに少し……」

「禁書?」


騎士団長が眉をひそめる。


「詳しくは王都で報告します」

リュゼルがまだ震える手で答えた。


「とにかく、馬車にお乗りください。お二人とも、かなり消耗されています。傷の治療も必要でしょう」


騎士たちは慌てて馬車の準備を始めた。


◇ ◇ ◇


【2. 王都への帰路】


馬車の中で、晴歌は騎士が持参してくれた薬草で傷の手当てを受けていた。

リュゼルは向かいの席に座り、少しずつ顔色が戻ってきている。


「痛くないか?」

リュゼルが心配そうに尋ねる。


「うん、大丈夫。薬草がよく効いてる」

晴歌が微笑むと、リュゼルは安堵の表情を見せた。


「傷が残らないように治癒魔法をお願いしなきゃな」


「……大丈夫だよ。そこまで深い傷じゃないから」


「いや、女の子なんだし、傷跡は残さない方がいい……いや、でも冒険者とか騎士団の女性は当たり前か…?」


あまりの必死さに、晴歌は思わず笑ってしまった。


「そんなに心配しなくても大丈夫。リュゼルらしいね」


車窓から見える夕陽が、二人の頬を優しく染めていた。


◇ ◇ ◇


王宮に到着すると、既にルディアン王子が待っていた。


「無事だったか」

王子の表情に安堵が浮かぶ。



「はい。ただ、禁書が関わっていました」

リュゼルが簡潔に状況を説明する。


「禁書……やはりそうか」

王子が深刻な表情になる。



「ハルカの力で、その影響を取り除くことができました」


「君の力が、禁書にも効くのか……」

王子が晴歌を見つめる。


「重要な情報だ。しかし、今日は報告よりも休息を優先してほしい」

王子が振り返る。


「実は提案がある。しばらく城に滞在してはどうだろうか」


「お城に?」

晴歌が驚く。

「二人とも相当な消耗をしている。城の医師に診てもらい、ゆっくり回復してほしい」


「ありがたいお申し出ですが……」

リュゼルが遠慮しようとすると、王子が微笑んだ。


「それに、回復したら小さな夜会を開こうと思っている。ハルカ嬢には今回の功績を讃えたいし……」

王子がちらりと晴歌を見る。



「ハルカ嬢のドレス姿がどれほど美しいか、見てみたくもある」


「私!? ドレス!?」


晴歌が慌てたように声を上げる。


「見てみたい……」


「みたい!」

フィアナが手を叩いて喜ぶ。


「いつも同じような格好だから、たまにはいいんじゃないか?」

ティオが肩をすくめながら言う。


三人の声が重なって、晴歌の頬が赤くなった。


◇ ◇ ◇


城の客室に案内された晴歌。

豪華な調度品に囲まれた部屋で、傷の治療を受けていると、扉をノックする音が聞こえた。


「ハルカ、俺だ」

リュゼルの声だった。


「どうぞ」

扉を開けると、彼が少し緊張した様子で立っている。



「体調はどうだ?」

「もうほとんど良くなった。城の薬は本当によく効くね」


晴歌が手を見せる。傷はもうほとんど目立たない。


「よかった……」

リュゼルが安堵の息を吐く。


手当てをしてくれていた城の従者が静かに部屋を出ていくと、二人は窓際の椅子に座り、星空を見上げた。


「ハルカ」


リュゼルが真剣な表情になった。

「改めて言わせてくれ。俺を救ってくれて、ありがとう」

「うん……」

「俺にとっては……命よりも大切なことだった」


リュゼルが晴歌の手を取る。今度は、震えていない。


「ハルカ、俺には言わなければならないことがある」


◇ ◇ ◇


「俺は……お前を愛してる」


静かだが、確かな声だった。


「束縛したいわけじゃない。守りたいだけでもない。ただ……お前と一緒にいたい」


晴歌の胸が熱くなる。


「いつか……お前が俺でいいと思ってくれるなら……」

リュゼルの頬が赤くなる。


「結婚したい。お前と家族になりたいんだ」


「リュゼル……」


「返事は急がない。ただ、俺の気持ちを知っていてほしかった」


晴歌は少し考えてから、静かに答えた。


「私も……リュゼルと一緒にいると、すごく安心する」

「ハルカ……」

「まだ、よくわからないこともあるけど……」


晴歌が頬を赤らめながら続ける。


「でも、リュゼルの気持ち、嬉しい。私も……好き」


リュゼルの表情がぱっと明るくなった。


「本当か?」

「うん」


晴歌が微笑むと、リュゼルも嬉しそうに笑った。


「あ、でも……一応言っておくけど、ティオやフィアナに対するのと同じ好きじゃないからね」


晴歌が慌てたように付け加える。


「そんなの分かってる」


そっと、リュゼルが晴歌の手に口づけをした。


「ありがとう……」


星空の下、二人の新しい関係が始まった。


◇ ◇ ◇


翌日の午後、城の侍女たちが晴歌の部屋にやってきた。

「夜会のお支度をさせていただきます」

「ドレスをいくつかご用意いたしました」


美しいドレスが並べられている。深いブルー、エメラルドグリーン、ワインレッド。どれも上質な生地で作られていた。


「すごい……本物のドレスだ……」


晴歌が迷っていると、侍女の一人が提案した。

「このサファイアブルーはいかがでしょう。お嬢様の瞳の色によく映えると思います」


鏡の前に立つと、確かにドレスが晴歌をより美しく見せていた。まるで別人のように上品で、それでいて自然な美しさを引き出している。


「髪も整えさせていただきますね」

侍女たちの手で、晴歌は見違えるように美しくなった。

鏡に映る自分を見て、晴歌は少し驚いた。これが本当に自分なのだろうか。


その時、扉をノックする音が聞こえた。

「ハルカ、準備はどう?」

フィアナの声だった。


「どうぞ」

既に準備を終えたフィアナが美しいドレス姿で現れた。


「わあ、フィアナすごく綺麗!」

晴歌が手を叩いて喜ぶ。


「ありがとう。ハルカも本当に美しいわ」

フィアナが微笑む。


「でも、アクセサリーはこれから?」

「うん」

晴歌が答えると、フィアナが意味ありげに微笑んだ。


「じゃあ、これはどうかしら」


フィアナが小さな箱を取り出す。中には金と銀の地金に、薄い紫がかった青い石をあしらった繊細なネックレスが入っていた。


「あの……これは?」

「リュゼルにぴったりの色よ」

フィアナがにっこりと笑う。侍女たちも「まあ、素敵!」「お似合いですわ!」と嬉しそうに声を上げた。


晴歌は意味がよく分からなかったが、みんなが笑顔なので首に着けてもらった。


◇ ◇ ◇


夜会の会場となった小さな晩餐室。

王と王后、ルディアン王子、そしてその兄と妹二人が既に席についていた。


「こちらがハルカ嬢です」

ルディアン王子が紹介すると、王が優しく微笑んだ。

「君が例の少女か。美しい子だね」


王后も温かい笑顔を向ける。

「今夜はよく来てくれました」


その時、扉が開いて、リュゼルより少し年上に見える男性が入ってきた。

「遅れて申し訳ない」


「こちらはザル=エンハール連邦王国 ヴァルゼイン=ドラス陛下です」

ルディアン王子が紹介した。


「たまたま外交でお越しいただいているところでした」


リュゼルが慌てて深く頭を下げる。

「陛下、このような場にお呼びしてしまい……」


「構わん。この娘に会えるのを楽しみにしていた」


ヴァルゼイン王が晴歌を見つめる。

「君が我が国の騎士を救ってくれたそうだな。感謝している」


夜会は和やかに始まった。


そして——その時、扉が勢いよく開いた。


「お邪魔いたします」


美しいブロンドの女性が、堂々と入室してきた。

セレスティア・フォン・ヴィルヘルム公爵令嬢だった。

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