表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった  作者: 川浪 オクタ
第1章 『帰り道は、まだ、どこにも見えなかった』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/35

第21話『本心の名前』

「さて、私たちは空気読んで先帰るわね」

 フィアナがくすくす笑う。


「ああ、ゆっくり話してこい」

 ティオも頷いた。


「いや、一緒に帰ろう」

 リュゼルが少し照れくさそうに言った。


 四人は並んで、王都への道を歩き始めた。


 夕日が長い影を作る。草原を渡る風が、心地いい。


「今日の任務、お疲れ様」

 リュゼルが三人を見る。


「お疲れ様」

 三人が声を揃える。


「一時的なパーティーだが……悪くなかったな」


「うん」

 晴歌は頷いた。


 初めての共闘。初めてのチームワーク。

 みんなで助け合って、守り合って、戦った。


(これが、仲間っていうこと)


 心の奥が温かくなった。


「また一緒に任務ができるといいね」


「ああ」

 リュゼルが笑う。


 その笑顔が、今までで一番穏やかだった。


 ◇ ◇ ◇


 王都に戻ると、宿屋の前には店主のロルフとサラが並んで立っていた。


 二人とも涙の跡があるが、穏やかな笑顔を浮かべている。すでに騎士団から事情を聞いて、感動の再会を済ませた後のようだった。


「あ、お姉ちゃんたち!」


 サラが四人の姿を見つけて駆け寄ってくる。


 涙でまだ少し腫れぼったい目をしているが、笑っている。栗色の髪、大きな瞳、小さな体。それでもその目には、強い光があった。


 店主のロルフも深々と頭を下げながら近づいてくる。


「本当にありがとうございました。騎士団の方から、詳しく聞かせていただきました」


 その声には、深い感謝と安堵が込められていた。


「ありがとう! 助けてくれて!」


 サラが元気いっぱいに声を上げる。でもよく見ると、少し震えている。


 晴歌は膝をついて、サラと目線を合わせた。


「怖かった?」


 サラは少し俯いて、小さく頷いた。


「……うん。お母さんの声が聞こえて、でもお母さんじゃなくて……怖かった」


 目に涙が浮かぶ。


「でも、お姉ちゃんが助けてくれた。ピカーって光って、怖いのが消えた」


 サラは涙を拭いて、笑った。


「お姉ちゃん、すごかったよ! 光がピカーって!」


 サラが手を広げて、キラキラした目で晴歌を見つめてくる。


「私も、お姉ちゃんみたいになりたい! 魔法使いになって、困ってる人助けるんだ!」


 その言葉に、晴歌は嬉しさがこみ上げてきた。


「きっとなれるよ。サラちゃんは強いから」


「本当!?」


「本当」


 晴歌が微笑むと、サラは嬉しそうに笑った。でも、時折不安そうに父親の顔を見上げるのを、晴歌は見逃さなかった。まだ完全には立ち直れていない。それでも、一生懸命明るく振る舞おうとしている。


 ロルフは再び深々と頭を下げた。


「どうお礼を言えばいいか……本当に感謝しています」


「今夜はお礼に食事を用意させていただきます。ぜひお越しください」


「ありがとうございます」


 四人は顔を見合わせて、笑った。


 ◇ ◇ ◇


 宿屋の食堂には、騎士団や冒険者たちも集まっていた。


 テーブルには料理が並び、酒が注がれ、笑い声が響く。


「調査、お疲れ様でした」


 晴歌が騎士団長に声をかけると、彼は笑った。


「こちらこそ。君のおかげで全員無事に戻れた。塔の調査報告書も無事提出できる」


「あの塔、結局何だったんですか?」


「古代の時間魔法研究所の遺跡らしい。一週間前に魔力が暴走し、ダンジョン化したようだ。君が壊してくれたおかげで、これ以上の被害は出ない」


 騎士団長は晴歌の肩を叩いた。


「君の力は、確かに人を守っている」


 その言葉に、晴歌は心が満たされた。


 サラは元気に走り回っている。さっきまでの弱々しい姿は、もうどこにもない。


「ハルカお姉ちゃん! これ美味しいよ!」


 サラが料理を持ってくる。


「ありがとう」


「ティオお兄ちゃんも! フィアナお姉ちゃんも!」


 サラは三人に料理を配って回っている。


「元気な子だね」


 フィアナがくすくす笑う。


「ああ、さっきまでの様子が嘘みたいだ」


 ティオも頷いている。


 リュゼルは酒を飲みながら、晴歌を見ていた。


「ハルカ」


「はい」


「お前、今日よく頑張ったな」


「みんなのおかげです」


「いや、お前の力だ」


 リュゼルは真っ直ぐ晴歌を見る。


「お前は、人を守れる。そして救える」


 その言葉に、晴歌は胸がいっぱいになった。


(人を助けられた。守れた)


 破壊の力は、守るためにも使える。

 その確信が、胸の奥に芽生えていた。


 ◇ ◇ ◇


 宴が終わって、四人は宿の外に出ている。


「ふぅ……ちょっと飲みすぎたかも」


 フィアナが頬を赤らめながら、夜風に当たっている。


「俺もだ。外の風が心地いい」


 ティオも珍しく顔が上気していた。


 星空が美しい。


「あの煮込み料理、すごく美味しかったね」


 晴歌が宴を振り返る。


「ああ、店主の腕も確かだな。宿屋だけじゃもったいない」


 リュゼルが頷く。


「こうやって時々外に出るのも、いいものね」


 フィアナが夜風に髪をなびかせながら言った。


「森にばかりいると、星空の広さを忘れそうになる」


 ティオも空を見上げている。


「さてと、私たちはそろそろ部屋に戻るね」


 フィアナがウインクする。


「ああ、ハルカ、リュゼルおやすみ」


 ティオも頷いた。


 二人は宿の中に消えていった。


 晴歌とリュゼルだけが、夜空の下に残された。


 沈黙が降りる。


 風が、二人の間を吹き抜けていく。


「ハルカ」


 リュゼルが口を開いた。


「今日、お前と一緒に戦えて……良かった」


 晴歌の心臓が、ドクンと跳ねた。


「みんなを守るお前の姿を見て、改めて思った」


 金色の瞳が、星明かりを映して揺れている。


「俺は、お前と一緒にいたい。お前が笑っていられる場所に、いたい」


 沈黙が降りた。


 晴歌は言葉が出なかった。


 胸がどきどきして、苦しくて、でも嬉しい。


「……急に言ってしまって、すまない」


 リュゼルは照れくさそうに頭を掻いた。


 その仕草がいつもの彼らしくて、晴歌の緊張がほぐれる。


「ううん、嬉しかった」


 小さく呟いた晴歌の言葉に、リュゼルの目が見開かれた。


「ハルカ……」


「まだ、よくわからない。自分の気持ちも、この状況も」


 晴歌は夜空を見上げた。


「でも、リュゼルがそばにいてくれて……心強い」


 それは、今の晴歌に言える精一杯の言葉だった。


 リュゼルは優しく笑った。


「俺も、お前がいてくれて心強い」


 ◇ ◇ ◇


 その夜、宿の部屋で。


 晴歌は窓辺に立って、星空を見上げていた。


(残り82個……まだ遠い)


 でも今は。


(みんながいる。リュゼルが、ティオが、フィアナが)


 一人じゃない。


 その事実だけで、何よりも心強かった。


 ふと、視界の端に浮かんだウィンドウに目を向ける。


 破壊したダンジョン:18 / 残り:82

   【状態:やや不安定】


(あれ……?前は【状態:安定】だったのに……)


 いつから変わったのだろう。リュゼルへの気持ちが変化したから?それとも──


 窓をノックする音がした。


 振り向くと、フィアナが顔を覗かせている。


「ハルカ、まだ起きてる?」


「うん」


「ちょっといい?」


 フィアナが部屋に入ってくる。その後ろにティオも。


「どうしたの?」


「ううん、なんとなく。リュゼルといい感じだったでしょ?」


 フィアナが晴歌の隣に座る。


「あの人がいないうちに、話聞かせてよ」


「今日、リュゼルに何か言われた?」


 晴歌は顔が熱くなった。


「……うん」


「やっぱり」


 ティオはニヤニヤ、フィアナがにこにこ笑う。


「リュゼル、ずっとハルカのこと見ていたもんね」


「私……どうしたらいいか、わかんなくて」


「焦らなくていいのよ。自分の気持ちに正直になればいいのよ」


 フィアナが優しく言った。


「お前は、リュゼルのことどう思っている?」


 ティオの問いに、晴歌は少し考えた。


「……わかんない。でも」


 晴歌は窓の外を見た。


「一緒にいると、なんか……温かくなる感じ」


 その言葉に、二人は笑った。


「それが答えなんじゃない?」


「……うん」


 晴歌も笑った。


 三人で星空を見上げながら、静かな夜が更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ