第5話『"壊すだけ"じゃない旅が、ここから始まる』【後編】
ティオとフィアナから教わったサーチ魔法を携え、晴歌は双子が教えてくれた古いダンジョンへ向かう。
迷路のような構造の中で慎重にサーチを展開し、命の気配がないことを確認していく晴歌。
「見て、選んで、壊す」という新たな責任を胸に、彼女は成長への一歩を踏み出していた。
彼女はふと、フィアナの言葉を思い出した。
「目を閉じて、感じてみて。
魔力の流れは、生き物の鼓動に似ているの」
その言葉に導かれるように――晴歌は、最後の確認を終える。
(……壊す)
指先から放たれる"破壊"の魔法。
静かに、しかし確かに、ダンジョンの構造が崩れていく。
【記録:4/残数:96】
【状態:安定】
淡々とした通知が、視界の端に浮かび上がった。
ダンジョンのあった場所には、苔むした石板がひとつだけ残されていた。
かすかに魔法の痕跡を帯びたそれは、まるでこの地の記憶を語る証のようだった。
なぜ、このダンジョンは作られたのだろう。
何かの思いや目的が、そこにはあったのかもしれない。
(……ただ壊すだけじゃないんだ)
"命がない"と分かったからこそ、壊せた。
"命がある"と分かるようになったからこそ、壊すことをためらえる。
見て、選んで、そして責任を持って壊す――
それが、自分の役目なのかもしれない。
森の向こうには、風の流れる草原と、まだ見ぬ旅の道が広がっていた。
ティオとフィアナ。
そして、これから出会う誰かのことを想いながら――
晴歌はまた、ゆっくりと歩き出す。
彼女の旅は、まだ始まったばかり。
壊す力と、選ぶ心を胸に――。
◇ ◇ ◇
同じ頃、王都の一角――人目を避けた静かな中庭。
緑の瞳を持つ金髪の青年が、隣に立つ銀髪の騎士へと視線を送った。
「――行けば、会えるんだろう?」
王太子としての優雅な佇まいの中にも、どこか好奇心に満ちた光が宿っている。
「……ああ」
金の瞳がわずかに細められる。竜族の血を引く騎士・リュゼルは、後ろで束ねた銀髪を軽く揺らしながら、どこか不本意そうに答えた。
「だが、無事に戻れる保証はない」
それは半ば、王太子を思いとどまらせようとする言葉でもあった。
それでも緑の瞳は興味深げに輝き、王太子は石畳に足を踏み出す。
王宮の責務よりも、一人の青年として――彼には確かめたいことがあった。
二人がここに並び立つのは、偶然ではない。
それぞれが求めるもののために――そして、同じ"誰か"のために。