◆第7話 学園都市の舞踏会と金糸雀の歌姫
ギルドから帰還して三日後。学園都市ラグリマは年に一度の大舞踏会で浮き立っていた。
俺――冬月颯人は、飛鞍焔豹が仕立ててくれた燕尾服に袖を通し、鏡の前で深呼吸。
「似合っておる」
背後から稲吹深音の声。振り向けば、紫紋の入った純白ドレスが夜空の稲妻を孕むように輝いていた。
「……綺麗だ」
素直に洩らすと、深音の雷紋が瞳で花火のように弾ける。
会場〈星霜オペラハウス〉。大理石の階段を下りる途中、深音の裾が装飾灯の電飾に触れ、バチン! と帯電しショートした。
ドレスの裾が破裂し、ミニ丈に早変わり。会場はどよめき、深音は顔を真紅に染めて動揺する。
直後、つまずいて足首を捻挫してしまった。
「痛ッ……!」
俺は咄嗟に彼女をお姫様抱っこし、吹き抜けの控え室へ。
ふわりと漂うラムネの甘い匂いと、肩に触れる柔らかな感触。心臓がドラムロールよろしくとび跳ねた。
舞踏会の目玉は〈金糸雀の歌姫〉――ミーニャ・オルゴフィールというソプラノ歌手。
開演直前、楽屋の天井から黒衣の暗殺者が降り立つ。狙いは歌姫。
俺は《雷禦の器》を展開、深音は片足ながら杵を振るい雷撃バリアを張る。
ところが暗殺者は超重力魔法〈グラヴィ=シンギュラリティ〉で床を崩落させ、歌姫は奈落へ落下――
シャルトリューの銀矢がワイヤーを射ち、歌姫を宙づりにして救出。
暗殺者は煙幕で撤退したものの、床下に黒水晶の“裏紋章”を残していた。
「二重スパイがギルド内に潜んでいるかもしれない」
シャルトリューの低い声に、俺たちは頷いた。
平穏を取り戻した会場では歌姫がアンコール。《金糸雀の鎮魂歌》が響き、深音の帯電を静めた。