◆第23話 神殺し開幕──蒼梟アルタイル降臨
月虹石柱宮を出ると、翠樹海の上空に巨大な蒼雷陣が浮いていた。羽ばたきの度に雷雲を散らす蒼翼。それがアルタイル=ネベリウス――〈蒼梟連隊〉を率いる神殺傭兵の指揮官だ。
「雷哭の姫を供物に、旧神を屠る!」
号令とともに蒼雷の矢が雨のように降る。
逢月が潮音羅針盤を振り、風向きを反転して矢雨を逸らす。ラジアは月虹障壁で仲間を覆い、鈴寂は白拳で雷矢を叩き折った――その拳はまだ微かに震えるが、炎の熱のような決意を帯びている。
「拳は揺れながらも進む!」
彼女の叫びが雷雲を裂き、シャルトリューの銀矢がその裂け目を縫うように飛翔。蒼矢の束を空中で相殺し、粉々の光屑が朝空へ散った。
俺は深音と背中合わせになり、皇器の紫殻を展開。
「雷禦ノ皇器、出力八割……深音、無理はするな」
「雷哭の鍵は余が抱く。御主が支えよ、颯人」
蒼雷が地を焦がし、森の樹皮が電磁焦げの匂いを放つ。汗に混じる草木の鉄臭、そして何より焦げた硫黄が胸の奥を刺した。
アルタイルは上空で翼を閉じ、大気を圧縮した**蒼梟核**を展開。雷力を乱流に変換し、地表の魔導脈を逆流させる禁呪だ。
「深音の雷が吸われる……!」
深音が杵を支えながら呻き、胸当ての下で雷紋が不規則に脈打つ。
そのとき、霧中から紅い鞭剣が一閃。カルヴェロが横槍を入れ、アルタイルの翼膜を裂いた。
「花嫁衣裳決闘は延期よ! 今は賞金の上積みをさせてもらうわ!」
女船長は笑いながら言うが、鞭剣の軌跡は深音ではなくアルタイルを狙っている。その意図を測りかね、俺は一瞬判断を迷った。
迷いを吹き飛ばしたのは鈴寂の叫びだ。
「怯むな! 拳はただ前へ!」
彼女の新奥義《雷偃爪・白》が蒼光を穿ち、焔豹のハンマーが後続の雷矢を粉砕。そこへ逢月の潮風ブーストが火焔を纏わせ、シャルトリューの銀矢が最終導線を穿つ。
深音と俺は《雷哭双鏈》に全員の雷脈を束ね、《紫嵐カデンツァ》を放った。
蒼梟核は真紫の雷で貫かれ、アルタイルは蒼い羽根を撒き散らしながら霧へ消えた。
だが戦場には雷雨と硝煙と、半透明法衣の胸紐を手で押さえる深音の息遣いが残された。肩先から滴る汗が、紫電と混ざり熱い蒸気を上げる。
「……見惚れておる暇など、ないぞ?」
「す、すまない!」
カルヴェロは鞭剣を肩に、「次こそ花婿争奪戦よ」と宣言し、濡れポニーテールを薙いで去った。桂花茶の様な匂いが雷雨にかき消されていく。