◆第18話 集結ハーレム・雷哭交響《シンフォニア》
帰艦わずか数分。〈蒼紋クラリオン〉は左右からの至近斉射に晒された。
「鵺猫団、先遣艦!」
砲煙の壁を裂き、三胴船〈夜雀ノ咆哮〉と双胴砲艇二隻が鋏み込む。舳で笑うのは艶紅の軍装――スフィンクス・カルヴェロ。
「賞金も蒼海門も全部いただくわ!」
鞭剣が黒電を引きずり、甲板を舐める。木と鉄板が火花を散らし、船体が傾いた。
「コアを死守せねば門が閉ざされる!」
深音が胸にコアを抱え、雷紋を煌めかせる。鈴寂は拳帯を締め直し、焔豹は紫晶ハンマーを肩へ。逢月は羅針盤残骸で即席ジェット帆を組み上げ、ラジアは虹杯を掲げて魔力を束ねる。
そこへ──弓弦が張りつめる乾いた音。
「照準、敵艦右舷砲列。」
シャルトリュー・フェルクレール。銀髪を風になびかせ、艦橋の雨覆に片膝を立てていた。
濡れ前髪の隙間から覗く翡翠の瞳がほんのり上気し、襟元のアーチェリーホルスターが潮で重く貼り付いている。
「銀猫閃矢――裂帆」
放たれた一本の銀矢が霧を断ち、敵艦の主帆を縦一文字に両断。瞬間、風圧が逆流し砲身が仰角を失う。続けざま二射目、錨鎖を切断し、艦のバランスを崩す。
「狙いは任せろ。奔れ、雷哭!」
風向きを掴んだ逢月が潮音ブーストを開き、焔豹がハンマーで砲弾を撥ね返す。鈴寂の拳震波が敵板壁を粉砕し、裂け目へ紫電が流れ込む。
シャルトリューは次々と銀矢で敵船の帆索・舵・弾薬庫をピンポイント破壊し、火薬煙が夜空に咲く花のように広がった。
カルヴェロは鞭剣を鞭から刃へ変形させ、ロープを渡りながら深音へ突進。《黒猫弾幕》と呼ばれる暗弾をばら撒く。
「深音、後ろ!」
俺は《雷禦ノ皇器》で紫殻バリアを張り、深音の背を守る。衝撃で法衣の胸紐が弾け、肩から布が滑り落ちる――そこへシャルトリューの銀矢が飛来し、布を桁へ釘打ちにして露出を最小限に抑えた。
「感謝する、銀猫!」
顔を赤らめながら深音が礼を言う。シャルトリューは頷いただけでまた弦を引き絞った。
全員の雷脈が臨界へ。同調歌のように心拍が重なり、甲板中央に紫電の大円陣が出現。
「雷哭交響――《六重裂海雷》!」
──六色。紫電、白拳、潮風、蒼虹、紅焔、そして月銀の矢光――。
編み込まれたストリームがらせんを描き、海面を沸騰させながら突き進む。先遣艦の船腹を貫き、カルヴェロの旗艦の主棟を断ち割った。
カルヴェロは舳で舌打ちし、黒猫煙幕を弾けさせて撤退。
「器……面白いわ。また会いましょう」
艶紅のマントが闇霧に溶け、甘い桂花茶の匂いだけが潮と火薬の間に残る。
砲撃は止み、海には湯立つ蒸気と銀矢の残光が漂う。深音の法衣はシャルトリューの矢で留まったまま肩を露わにし、汗と海霧が肌へ玉のように宿っていた。
「助かったぞ、銀猫」
深音が袖で胸元を押さえつつ礼を言うと、シャルトリューは弓を納めて苦笑した。
「礼など要らない。的が大きかっただけだ」
頬にわずかな紅が差し、濡れたポニーテールの先で雫が弧を描く。
ラジアが杯を掲げ祈りを捧げると、虹色の光が甲板に静電花を咲かせた。夜明けの第一閃が蒼海門の花弁を照らし、雷橋が新大陸へ伸びていく。
俺たち〈雷哭の苗床〉は――紫電と銀光の余韻を背に、次なる戦場へ舵を切った。