◆第14話 拳猫僧と竜骨ジムの試練
雷橋を渡る途中、補給のため寄港した浮遊リーフ〈オルタカフィール〉は、竜骨珊瑚が風化した白亜の島だった。中心には巨大な武闘堂――竜骨ジムが屹立。
吹き抜けの道場を満たす潮と石灰の匂いは、微かに甘く、肌にざらついた質感を残す。
そこで逆立ち瞑想していたのが、白拳の少女、**狛豹 鈴寂**だ。額に巻いた白布の梵字に「豹」の字が光り、逆立った三編から汗がぽつりと落ちる。
「旅の武人よ。拳で語れ」
鈴寂は道着の袖を捲り、帯電を弾き返すように拳を構えた。
深音は即座に雷杵を鳴らし、「望むところじゃ!」と叫ぶ。観客席では焔豹が臂に針糸を通し「裂けたらここで縫ってやる」とにやけた。
リングは竜骨珊瑚の格子床。鈴寂の拳が放つは**《白豹穿爪拳》**――拳圧が真空を裂き、深音の雷撃を返す。
雷×拳が衝突し、珊瑚床が粉を吹く。立ちのぼる粉塵に湿り気が混ざり、頬を撫でる潮風が甘い。
中盤、深音がフェイントで足を払うが、鈴寂は空中で一回転。道着の膝下が裂け、白い太股が覗く。瞬間、俺の視線が泳いだのを雷紋が感知したのか深音の杵が目の前を掠め――「余から目を逸らすとは何事じゃ!」と怒声。
俺は慌ててバリアを展開し、粉塵を鎮めながら「違う誤解だ!」と弁解。
結末は相討ち。リング中央で倒れた二人は呼吸を整え、痛みすら笑いに変えた。
「拳に偽りはなかった」
鈴寂は深音へ黒帯を自ら巻きつけた。
夜。桟橋で海風に道着を乾かす鈴寂の背を、焔豹が革上着でそっと覆う。「身体を冷やせば拳は鈍る」
静かな波音の中、鈴寂の頬が桃色に染まり、深音の雷紋が遠くで淡く明滅していた。