聖典 第1話 マーサの少年
これは、魔法都市ウィマステラができるまでの、ある一人の少年のお話――
ある一つの国、マーサ王国。
そこまで発展しているわけでもない国だが、たくさんの人々が住んでいた。
そのたくさんの人々の中のある一人の少年がいた。
「またあの子がウロウロ動き回ってる…危なっかしいわ…」
「本当に怖いわねぇ。この街から出て行ってほしいわ」
「本当にそうねぇ。あれがいなくなればこの街は平和になるのに…」
少年が街中を歩くたびに、街のあちらこちらから同じような会話が聞こえる。
少年はこのマーサ王国の中でも唯一、魔法が使える人間だった。
周りの人は魔法が使える人は危険人物だ、と少年を非難していた。
最初の方は、そこまで少年の噂は広まっていなかった。
今や、マーサのどこに行っても、皆が少年のことを噂する。
魔法使いだからと言って危険というわけではない。
そう伝えたかった少年は、耳障りな人間にも魔法を使わず、優しく接していた。
一体、何年それを続ければ、皆にわかってもらえるのだろうか。
ある日、少年はお肉を買いに、肉屋へと行った。
「おお、いらっしゃい坊や。今日は何のお肉かい?」
この肉屋のおばちゃんだけが、少年に対して一番優しい人だった。
「今日はこのお肉を200グラム貰える?」
「はいはい。これね。」
そう言ってショーケースから肉を取り出し、少年に手渡す。
「はいじゃあ、120サーね。」
「え、計算すると150サーになりませんか?」
「いやいや、この時間は割引セール中だから、30サー安いのよ。」
そう言って、お代120サーを受けとる。
少年は知ることもなかったが、割引セールというのは嘘だ。
肉屋のおばあちゃんは、少年が噂されていることを知っている。
そして、それが少年にとっていかに苦しいことか、わかっていた。
だから、せめてもの救いとして、少年に優しく接してあげようとしていたのだ。
そして、そんな嘘をついたのにはもう一つ理由がある。
少年の両親がいないということだ。
これについては少年からしっかりと聞いていた。
両親が残した遺産を使って、今を生きているという事実をおばあちゃんは知っている。
だから、少しでも少年に多くの財産が残るようにと、いつも安くしている。
その心遣いがバレないように稀に通常価格で提供するときがあるが、その分、他のタイミングでとても安く売っている。
少年は、その心遣いに救われていた。
その頃、マーサ王国のとある一部分で、何かが起こっていた――
このお話は大体3話から5話くらいの間で終わらせたいと思います。
次回 聖典第2話 危機的状況