聖典 第5話 兄としての役目
ギア・カタロスの兄のお話です。
ギア・カタロスには兄のグラ・カタロスがいた。
グラ・カタロスは属性変化のスキルを生まれつき持ち、周りからチヤホヤされた。
ある日、そんなグラに弟ができた。ギアである。
ギアはグラと同じく生まれつきスキルを持っていた。
しかし、ギアのスキルは魔獣操作。それも凶暴な魔獣しか操作できないスキル。
ギアはグラと違い、周りからひどい目で見られた。
『落ちこぼれのギアが生まれてきてグラがかわいそうだ。』
『グラは使えて可愛げがあるけど、あの子は使えなくて可愛げもない。』
『兄と真逆じゃないか。』
『グラの名誉が下がって可哀そうだ。死んだほうがいいんじゃねえか?』
周りの人はグラが何も言わなければ言いたい放題だった。
グラはあんなにやさしくしてくれる大人たちの闇を知って苛立った。
ギアはグラの唯一の可愛い弟なのに、なんでみんなは酷いこと言うの?
―俺の弟を悪く言う奴は、兄の俺が許さない!
そう、グラは心に決めた。
「もし、ギアの心が折れても、寄り添ってあげてね。」
兄弟二人を一番心配して、平等に見てくれたのは、両親だけだった。
「わかった。母さん。俺はギアを守る。守り抜いて見せる。」
そのころからギアを守るようにしていた。
グラは周りの大人のもとへ行かなくなり、周囲の大人は言いたい放題言っていた。
家の前で悪口を言う、壁に悪口を書く、家に火をつける。
さらには、弟が殺されそうになった時もある。
「「魔獣従わすもの、殺すべし」」
魔獣を従わすものは、魔王の手の先だという思想が広がり、刃がギアに向いた。
その時、母親と父親はクエストを受けに行っていた。
「なんでお前らは俺の弟を狙うんだ!何も…何もしてないじゃないか!」
「お前まで悪の手に渡ったか。グラ。なら、お前は俺の敵だ。」
そう言って二人に刃を向ける。
二人は正直、死ぬと思っていた。殺されると思っていた。
「―でも、どうせ死ぬなら最後まであがいてやる!」
そう言ってグラは属性変化させた氷を身につけ、剣をも作り出した。
こうして、『氷の戦士』が誕生した。
「ぐすん。ぐすん。お、お兄ちゃん―」
「大丈夫だ、ギア。もう、殺しに来る敵は誰もいない。」
気が付けばグラは殺しに来たすべての大人をたった一人で殺していた。
「お前のことは俺が必ず守ってやる!」
そしてグラの中で『ギアを守る』ことが『兄』としての役目だと感じた。
グラ・カタロスの物語はまだ続きます。
次回 聖典 第6話 止めるべきもの