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第7話

 中庭にはたくさんの観客が集まっていた。周囲に囲まれた校舎からもたくさんの人が見物している。人波を掻き分けて、前の方へと足を進める。

 腕相撲トーナメントは毎年開催していて、柔道部やラグビー部などの力自慢が、こぞって競っているらしい。そして、優勝したら部室がちょっとだけ豪華になる景品が出る。

 参加者のほとんどが運動部の男子生徒という訳だが。しかし……


「ウチの勝ちね」


 そこには、舞台上で平然とした様子で、体格の良い男たちをバッタバッタと倒す女の子の姿があった。ホノカさん……どんだけ強いんだよ。


「くそっ! 手も足も出なかった……マジでバケモンだ」


 柔道着を着た対戦相手が、悔しそうに嘆いている。

 まぁ、そりゃそうだろう。華奢(きゃしゃ)な女の子が、どこにそんな怪力をどこに隠しているのか。疑問しか浮かばない。その敗北は、毎日身体を鍛えているスポーツマンにとって、これ以上ない屈辱(くつじょく)だろう。


「次が決勝ね」


 ホノカさんの腕力に驚く。でも、マリンさんに抱き着かれた時の力凄かったし……姉妹揃ってなのか?


「対戦相手は、ウエイトリフティング部部長! 歴代史上最高と(うた)われる体格の持ち主……鬼川鉄次郎(おにがわてつじろう)くん!」


「……うっす」


 レフェリーのコールと共に入場してくる。同じ人間とは思えない体格……腕が大木みたいに太い。着ている白のタンクトップが破れそうな程に、筋肉がデカい。ボクと同じ高校生とは思えない。こんなのと相手したら、ホノカさんが死んじゃう。そう思えるほどの体格差だ。


「その女を倒せるのは部長しかいません! 散っていった体育会系男子の願いを背負って、死ぬ気で頑張ってください!」


 男子生徒の声援は、あの男に集中している。まぁ、ボクはホノカさんを応援するけど。


「姉御! 頑張るっす! そんな野郎、ボコボコにしちゃってください!」


 どこからか聞こえた女の子の声援……って、姉御? 三姉妹だったのか?


茉穂(まほ)っ! その呼び方しないの! もし、ナギくんに聞かれたら……あっ」


 ホノカさんと観客席のボクの目が逢う。


「が、頑張ってね」


 なぜだろう……見てはいけないものを見ているような気がして、凄く気まずい。


「ち、違うの! これは、たまたま残っちゃっただけで……そう、相手が弱かったの! 全員、見掛け倒しなヤツばかりで……決して、ウチが馬鹿力ってわけじゃないから!」


 ホノカさんが顔を真っ赤にして説明してくる。自分で墓穴を掘っているような……

 あんなに「見ないで!」って、言っていた理由も分かった気がする。


「貴様っ、対戦相手をコケにするとはっ! 許せぬ……成敗してくれる!」


 ホノカさんの何気ない言葉が、対戦相手の闘志をさらに燃え上がらせる。


「構えっ!」


 レフェリーの掛け声と共に、右腕を握り合う。


「うぅ……こんなのことだったら、参加しなきゃよかったよぉ……」


 うなだれる様に、ホノカさんの口から後悔の念が漏れる。


「叩き潰す。景品は、我がウエイトリフティング部が頂く」


「はじめっ!」


 ゴングが鳴ると同時に、観客の男子の応援が激しさを増す。それに対抗して、女子たちも姉御コールを轟かせる。完全にボクだけ場違い……


「くたばれっ、姫野ホノカ!」


 相手は声をあげて、かなりの力を入れているように見える。しかし、ホノカさんの腕はビクともしない。腕の太さは軽く見積もって3倍はあるだろうに。


「どうしよう、ナギくんに見らてるよぉ……」


 あまりにも様子が違い過ぎて、対戦相手に同情したくなってくる。


「な、なんじゃこれ……ふん!」


 対戦相手が力を入れた瞬間、ピッチピチだったタンクトップがはじけ破れる。人間を卒業したような肉体が露わになる。

 まぁ、状況は何も変わらない。すでに勝ちは見えていた。今、応援している男子も希望を捨てきれない一部だけで、ほとんど意気消沈である。


「こ、こいつ……もしかして、ゴリラの生まれ変わり?」


 対戦相手が吐露(とろ)した思いにカチンときたのか、


「それは……お姉ちゃんの方よ!」


 ホノカさんが腕をへし折るが如く、相手の手の甲を全力で台に叩きつけてねじ伏せる。


「ぎゃあああああああああっ!」


 鈍い音と対戦相手の悲痛な叫びと共に、ホノカさんの優勝が決まった。

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