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第3話

 退院当日。ボクの両親とあの姉妹が、部屋まで迎えに来てくれた。

 あまり美味しくない病院食とおさらばできるなんて……良い気分だ。窓から見える雲一つない晴天は、まるでボクの心を表している様だった。


「ナギくん退院おめでとう~」


 ホノカさんは学校の制服を着ていた。右胸のあたりに校章が付いた黒のブレザーに赤いネクタイが目立つ。

 でも、どうしてだ? 今日って、日曜日なはず……


(なぎさ)、大丈夫だったか?」


「う、うん」


 ボクの肩を掴み、父が心配そうな表情で聞いてくる。


「よし! 超力持ちな父さんが、荷物を全て持ってあげよう!」


「大丈夫です。これくらい持てますから……」


「いや。お前はもっと身体を心配しなさい! ここはワタシに任せろ」


 そう言って、父が張り切って大量のカバンを持つ。


「ほら、この通り……」


 見せつける様に高々と鞄を持ち上げた瞬間、


「ぎゃああああぁぁっっつ!」


 悲痛な叫び声を上げて、派手に倒れこむ。


「アナタっ⁉」


 皆が駆け寄り心配する。そして、病院中に響き渡った父の劈く悲鳴を聞いてか、ナースさんや医師が次々と部屋にやって来る。


「大丈夫ですか⁉ 何があったんですか?」


 男の医師が倒れこむ父に呼びかける。


「わ、ワタシの……こ、腰に……神の一撃が……」


 父が顔をぐしゃぐしゃにして、涙を流しながら答える。


「た、たたた……助けてくださいぃ……」


「これは……ぎっくり腰ですね」


 退院患者を迎えに来た人が、患者にって……

 悶絶する父が担架で迅速に運ばれていく。その様子からは心配よりもマヌケさが勝っていた。


「はぁ……ワタシは父さんを見なきゃいけないから、渚たちは先に帰ってて?」


 母が呆れた様子で話す。まぁ、そうなるだろう。


「荷物は車に積んでおいてね。ワタシが持って帰るから。タクシー呼ぼうか?」


「家まで近くって聞いていたので……徒歩で帰ります」


 退院後のなまった身体をほぐすのに、ちょうど良い運動になりそうだし。


「お母さん、任せてください! アタシが責任を持って、渚くんを家まで連れて帰りますから!」


「ありがとう。マリンちゃん」


「じゃあ、ウチだけノケモノじゃん」


 ホノカさんが目を逸らしてボソッと呟く。


「何かあるんですか?」


 ボクが聞いてみると、少しの沈黙の後、


「そ、それは……学校」


 下を向いて、ホノカさんが寂しそうな表情を見せる。


「まぁ、可哀そうに。学園祭だからサボれないのよねぇ~」


 マリンさんがあの時みたいに、煽るように刺激する。しかし、ホノカさんには効いていないようだった。

 屋台とか出し物とか、何かするのかな? クラスの皆で、劇とかしたりするのかな?


「……ぼ、ボクも行きます」


「えっ⁉」


 予想外の答えだったのか、ホノカさんがパッと顔を上げる。


「家に帰っても、多分ヒマですし。準備とかで、忙しいなら大丈夫ですけど……」


「え~アタシと楽しいことしよ?」


 マリンさんがボクの腕に抱き着き、甘い言葉で(ささや)く。


「や、止めてください!」


 すぐにマリンさんを剥がすようにするが、強い力でなかなか放してくれない。数秒経つごとに、恥ずかしさから顔の温度が上がっていく。


「それに、何か思い出せるような……そんな気がするので」


 言えない。本当は、「ほっとけないから」なんて……

 でも、どうしてだろう。ホノカさんの悲しそうな顔を見ると、凄く気持ちがモヤモヤして、胸がギュッと締め付けられそうになる。


「ナギくん……」


 ボクの言葉を聞いて、ホノカさんの表情に笑顔が戻る。


「ええっ? お母さん心配だよ?」


「お、お願いします!」


「そんなに頭を下げないでよ。じゃあ……」


 母さんが少し悩んだ後、カバンから財布を取り出して、ボクに1000円札を2枚手渡す。


「楽しんできなさい。ただ、身体には気を付けるのよ? マリンちゃん、ホノカちゃん、頼んだわね」


「はい!」

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